プロローグ

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言い当てられた事実に、隠していた行動の解明に、透吾が唇を噛む。無駄な否定を口にしてくれた方が、犯人と対峙する探偵のようで士気が高まるのだが。 中学生相手に酷か、と自分の望みは断ち切るしかなかった。 「どうする?一つ一つ、謎を解き明かしていこうか。それとも、今すぐお母さんに報告しに行こうか」 「それは……」 多香子は犬嫌いだ。小学生時代に野良犬に噛まれたのを境に、犬に対しての嫌悪が根付いてしまった。 知人の俺に語るぐらいだ。息子の透吾が知らないはずがない。 部活を休んで、隠れて犬の世話は、多香子の怒りを買う。それは避けたいと、途切れた言葉やひそめる眉が教えている。 二択は、実質一択だ。 「じゃあ、謎を明かしていくよ。君も、俺がどうやって見抜いたか知りたいだろ?」 「……」 肯定の言葉はない。だが見つめる瞳が、知りたいと語っていた。推理の披露は相手よりも優位に立つ。 マンション『SkyBlue』のエントランス前。時刻は午後六時少し前。買い物帰りと思しき通行人が足を止めているのを視界の端に、俺の独壇場が幕を開ける。 「君のお母さんから相談を受けた時、俺が真っ先に向かったのは君の部屋だ」 「は?入ったのかよ」 「刑事が殺人現場に足を運ぶのと同じ理由で、手掛かりを探すなら誰だってそうする。君のお母さんも前に調べたそうだしね」 俺だけが調査したと知れば、怒りの感情に満たされるが、多香子と調査したと知れば、怒りは薄れる。原因は自分にあると、頭の片隅をかすめる。 透吾は親思い。そこを突けば、感情のコントロールは意のままだ。 不満げに唇を尖らせる透吾。一心に、謎解きに耳を傾けさせるには、その不満も取り除く必要がある。 「君の許可なく入ったことには申し訳ないと思っているよ」 「……」 口調に込めた切実な謝罪が、矛先を失わせる。透吾から、怒りや不満が消えていく。
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