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白茶色の子犬。犬の毛から推測していた、朧気だった見た目と大きさが形を成す。
「君の部屋に子犬の毛が落ちてたことは不自然極まりない。君のお母さんは犬が嫌いだから飼うはずないし、それ以前にそもそもこのマンションはペット禁止。とすれば、君の行動と子犬の毛は繋げて考えてもいい、と俺は推理した。この時点でほぼ答えは出たようなものだ」
「……犬」
「ん?」
「友達の、犬」
「なるほど。そうきたか」
言い逃れが通用すると、毅然とした態度から伝わってくる。虚勢でしなかった。俺の推理は揺らがない。
否定する犯人に成り下がった透吾のおかげで、なくした士気が甦ってくる。
「でも残念。それはあり得ない」
「何でだよ。お前は俺のこと知らないだろ」
「知らないよ。ただ推理することはできる」
敵意の眼差しを濃くした透吾を見返す瞳に、自負を込める。
「友達の犬と戯れるために、体調不良を理由に部活を休むのは不自然だ。君のお母さんは犬嫌いだが、犬という言葉を聞くのも嫌というほどではない。住人同士の井戸端会議に混ざることがあるのだが、その時に住人の一人が、知り合いが飼っている犬の話を始めても、君のお母さんはしっかりと聞いていた。犬への嫌悪はあるが、誰彼構わずじゃない。もし君が友達の犬と戯れたのなら、素直にそう言えばいい」
「犬と遊んだってだけで、怒るかもしれないだろ」
「なら友達と遊んだと言えばいい。何して遊んだと聞かれれば、ゲームとでも答えればいい。それで、君を疑うことはない」
口調や態度によるが、とはあえて付け足さなかった。別の秘密を抱えても、透吾は嘘を吐けばいい、と学んだ。疑われない嘘。
悪知恵をどう生かすかは、授けた相手次第だ。再び俺の元に相談が舞い込むのか、透吾は嘘を貫き通せるのか。
未来に想像を膨らませつつも、現在に向き直る。
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