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9-3.世界
「ようやく見つけた……」
「3つ目の……宝玉!」
芽実は最後の宝玉を天高く掲げた。
既に芽実の顔は泥まみれ。服にはいくつもの洗濯バサミがぶら下げられていた。
ヘンオンは、地面に崩れるように両手をついた。
ビリビリペンにより両手は痺れ、全身はローションまみれ。
【ふははははは、よくぞやった】
花子の声が頭の中に響く。
「花子ぉ……!!」
「……っ!」
芽実は顎の汗を手で拭った。彼女ももう今年で16歳だ。
【あんた達は、見事この世界のゲームをクリアしたって訳だね】
「そうだ!早くここから出せ!」
「……」
ヘンオンは黙りこくっている。
【まあまあ落ち着いて。約束通り、ここから出してあげる。ただし…】
「ただし……?」
【私との勝負に勝ったらね!】
「勝負だと!」
「……」
その時、ヘンオンは崩れるように地面に倒れ込んでしまう。
「に、兄ちゃん!?」
【ヘンオン!!】
ヘンオンは呼び掛けに応じない。
【もしかして……もう……】
「兄ちゃん!!兄ちゃん!!」
芽実はヘンオンを揺さぶる。
【間に合わなかった……の……?】
「花子!!あんた何か知ってるの?」
芽実はヘンオンの肩に手を置いたまま、花子に問いかけた。
【ヘンオン……その男は……】
花子が言い終わる前に、突然ヘンオンが起き出した。
「に、兄ちゃん……?」
ヘンオンの周囲から、徐々に世界が歪み始める。
【まずい……離れて芽実ちゃん!!】
芽実は急いでヘンオンと距離を取る。
「な、なんなの……あれ……」
ヘンオンの姿が、ノイズのように不安定に映る。
【あれは……ヘンオンの力……、作者本人としての力が暴走している!!】
『ローズの……鏃……ドラストネーション……』
「兄ちゃんの声が……!」
ヘンオンはマスクを付けた時に声が変わると言っていた。にもかかわらず、今のヘンオンの声は、あのこもった禍々しい声に変わっていた。
【クッソ……!】
芽実は腰を抜かし、その場に座り込んでしまう。そして、ノイズが目の前まで迫った瞬間、激しい衝突音と共に、目の前にあの人物が現れる。
「は、花子……?」
先程まで直接脳内で聞こえていた声が、目の前の人物から発せられる。
「……大丈夫、必ず止めてみせるから」
そこにいた花子は、芽実が知る花子とは違い、優しい光に包まれていた。
『繝ャ繧、繝ウ繝懊え……繝倥ラ繝ュ繝励Λ繝ウ繧ソ繝シ』
ヘンオンを起点に、さらに世界が崩れていく。もはや、これを止められる縺イ縺ィなど、この世に存在するのだろうか。
「これ以上お前の好きにはさせない!!」
花子は自分の力を繝倥Φ繧ェ繝ウにぶつける。ヘンオンはバランスを崩し、転倒した。
『明日の……』
「……!!」
周囲の気温が一瞬にして極端に下がる。
『歌姫……』
そう言った瞬間、ヘンオンの体からバチバチと電気が溢れる。
『……全部ボツ』
「あ」
一瞬にして、花子の体を雷撃が貫通する。
「は、花子!!」
芽実は叫ぶ。今頼れるのはもはや花子しかいないのだ。
『……削除』
花子は衝撃により吹き飛ばされ、芽実の足元まで転がった。
「はな……こ…?」
「……ご、ごめん……ね…、芽実……ちゃん。や、約束……守れそうも……ない……や…」
花子はそこで力尽き、地面に顔を伏せた。
「そんな……」
芽実は絶望し、膝から崩れ落ちた。
芽実は永遠とも思える暗闇の中で、必死にもがいた。
もがいてもがいて、手を伸ばしたけど、そこには暗闇しかなかった。
「ここまでの話、全部ボツになる?」
芽実の知らない、誰かからの声が聞こえる。
「諦めちゃダメだよ。まだまだここから面白くなるんだから」
その瞬間、少しだけ光が漏れ出してくる。
「そうですよ。ほら、手を……」
芽実は言われるがまま、手を掴んだ。
「私達は皆、あなたの仲間なんですから」
「元気だして。もう一回やってみよう」
「ここで終わったら、許さないからね」
一気に光が大きくなって行く。
「あ、あなた達は……一体……?」
芽実はこの人達に問いかける。
「覚えておいて。私達は……」
『……削除できない』
繝倥Φ繧ェ繝ウは徐々に焦り始める。
『何故』
ヘンオンは周囲を見渡す。徐々に世界が復元され始める。
「……か、かったね」
花子が、フラフラと立ち上がる。
「この世界はね……」
その瞬間、花子の後ろから圧倒的な光が溢れ始める。
『な……』
「兄ちゃああああああん!!!」
光から現れたのは、芽実だった。
「そう、この世界は芽実ちゃんが主人公の世界」
なんと、ここで妙に長かった第9話の主人公は、芽実だった事が判明した。ヘンオンと見せかけて実は芽実という巧妙な作戦に、ヘンオンどころか作者本人ですら気付かなかったのだ。
『う、嘘だ……!!』
繝倥Φ繧ェ繝ウの、この作品を終わらせるという思惑は、いとも容易く崩れ落ちて行く。
「真面目にやりなさあああああい!!」
芽実の渾身のパンチが、ヘンオンの顔面に炸裂する。
『うわっち!』
ヘンオンは吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
『……はい』
ノックアウト!!
「……ありがとう、芽実ちゃん」
花子はニッコリを笑って芽実にそう言った。
「……あのね、夢の中で声が聞こえたの」
「……声?」
花子は不思議そうに芽実を見た。
「私を暗闇から救い出してくれた声」
「……」
花子は少し笑った。
「……よくわからない。でも、優しい声だったんだね」
「……うん」
しばらく経った後、ヘンオンが目を覚ますと、そこには心配そうに自分を見つめる芽実の姿があった。
「あれ、芽実ちゃん……俺は一体…?」
「兄ちゃん!起きて!」
言われるがまま、ヘンオンは体を起こした。
【では、この世界から出してあげよう!】
花子の声が脳内に響く。
「あれ、勝負は……?」
「もう、随分と前に私が勝ったよ」
芽実は言いながら、ヘンオンの頭を軽く叩いた。
「いてっ……、そうか、ごめん」
【じゃあ、お疲れ様でした~】
ヘンオンと芽実は、再び時空の歪みに吸い込まれる。
「わああああああああ!!」
こうして、この世界での冒険は幕を閉じたのだった。
「……あれ、ここどこだ?」
ヘンオンが目覚めたのは、妙に鬱蒼としたジャングルのような場所だった。
「芽実ちゃん……芽実ちゃん!?」
周囲に芽実の姿はない。
「クソッ…芽実ちゃん!どこだ!!」
ヘンオンはジャングルを突き進む。ようやく視界が開けると、そこには大海原と砂浜が広がっていた。
「お、おい……」
海岸沿いに寝そべる芽実を見つけ、急いで駆け寄る。
「芽実ちゃん!起きて!」
「に、兄ちゃん……」
【目覚めたようだな!】
またしても、花子の声が脳内に響く。
「花子!ここはどこなんだ!」
【見ての通り、無人島だ】
「…は?」
【第二の世界、無人島。次のゲームは、この島から脱出してもらう!!】
「う、嘘つきー!!」
芽実は叫んだ。
【はーい嘘はついてませーん。出してあげるとは言ったけど、元の世界に戻すなんて言ってませーん】
「クッソこんの……!!」
「ムカつくーー!!」
【じゃ、頑張ってねー。ゲームスタートでーす】
こうして、第二のゲーム。無人島脱出サバイバルが始まったのだった。
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