3.邂逅

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3.邂逅

部屋の真ん中には、机が1つ置かれ、その傍らで一人の少女がうずくまっていた。 「うそ…、大丈夫!?」 「お、おい、気を付けろ!」 勇気の声を無視し、花子は少女に駆け寄った。 「……」 少女は虚ろな目をしており、問いかけにも応じない。 「な、なんなんだ……」 勇気はあたりを見回した。 『ようこそ、第三の間へ』 モニターにヘンオンの姿が映し出される。 『ゲーム中、その女の子を気にする事はない。その子は罰ゲームの為にそこに待機しているのだ』 言いながらモニター越しにヘンオンは手を振る。少女は急に笑顔になり、それに応じるように手を振った。 「おーい、わたる兄ちゃ〜ん」 『あっ、ちょっと…名前で呼んじゃダメ!』 「わたるって言うんだ……」 「姪っ子かな……?」 少女ははっとなってさっきの虚ろな表情に戻った。 『さ、さて。この部屋のゲームを紹介しよう』 すると少女から、花子と勇気にそれぞれ6個、人差し指の形をしたおもちゃが手渡された。 『戦略か?運か!?アジャスタブルじゃんけん対決〜!!』 「アジャスタブル……」 「じゃんけん…」 『私が考えた特殊なじゃんけんだ……1度しか説明しないから、よく聞くんだな』 ヘンオンは少しウキウキした様子で説明を始める。 『まず、お互いに普通にジャンケンをする。その時、そこに置かれた指のおもちゃ(アジャスター)を使う事で、出したあとに自分の手を変える事ができるのだ』 「なるほど…」 『アジャスターが指の形である理由はもうわかるな?つまり、アジャスター1つにつき指1本分使う必要があるという事だ。簡単な話、グーからチョキに変える時はアジャスター2つ、チョキからパーに変える時はアジャスター3つ、そしてグーからパーに変える時はアジャスター5つを使うって事』 「……ちょっと楽しそうかも」 『3回先取りで勝ったものの勝利とする』 「よし、じゃあ……」 『ただし注意点がある。一度使ったアジャスターは元には戻らない事。そして、パーからチョキなど、自分の指の本数を減らすような事もできない。許されているのはアジャスターを用いて指の本数を増やす事のみだ!』 「いかにして相手のアジャスターを減らし、自分にとって有利にしていくかが肝心ね」 花子は既に、自分の戦略を導き出しつつあるようだ。 『そして、今回の罰だが……』 すると、少女が嬉しそうに手を上げた。 『負けた者は、その少女に罵詈雑言を浴びせられた挙句にビンタされてしまう事だろう』 「っ……!!」 「うくっ……」 花子と勇気は少女を見つめる。少女は不敵な笑みを浮かべた。 『ルールはわかったな?…もしわからなかった事や質問等があれば、その少女に聞くんだ。いいな?では、ゲームスタートだ』 モニターの電源が切れた。 「ねえ、お嬢ちゃん」 勇気は少女に問いかけた。 「このアジャスターって、使わない事もできるの?」 「うん、できるよ!使ったアジャスターは、机の上に置いてね」 「……よし」 「はじめよう、勇気くん」 お互いに机越しに見つめ合う。 「ジャンケンポン!」 勇気はグー。花子も同じくグー。 「…まずは様子見からか」 そう、このじゃんけん。何気に一番安定しているのはグー。アジャスターが満タンであれば、チョキにもパーにも変えられるからだ。 「あいこでしょっ!」 勇気はグー。花子はパー。 「よし、ここで…」 勇気はここでアジャスターを2つ机の上に置く。 「チョキだ!」 「ぐぬぬ」 最初の勝ちをもぎ取る勇気。 「やりぃ」 勇気は考える。このまま流れでジャンケンをしていては勝てない。少女に罵られビンタされる事は避けたい。それだけは避けなければ、自分のイメージがとてつもなくダウンしてしまう。 「ジャンケンポン!」 勇気がグー、花子がチョキ。 「いいのかな?」 花子はアジャスターを3つ、机の上に置いた。 「パー!」 花子はここで初めてアジャスターを使い、自分の手をパーに変えたのだ。 「うぐぐっ」 こうして、花子も1回目の勝ちを収める。 ここで勇気、閃く。 「ジャンケンポン!」 勇気はパー、花子はグー。 「使うよ」 花子はアジャスターを2つ、机の上に置く。こうして、勇気は1回、花子は2回の勝ちになる。もう、勇気の後がない。 「ジャンケンポン!」 勇気はチョキ、花子はグー。 「アジャスター!」 勇気は机に3つ、アジャスターを置く。 「パーだ!!」 勇気2回、花子2回。互いのアジャスターは残り一つ。結局はただのジャンケンになってしまった。 「なるほどね……」 「最後の最後、真剣勝負だ!」 「ジャンケンポン!!」 ……勝ったのは、勇気だった。 「うそ……やだ…………」 「ごめん花子ちゃん。僕の勝ちだ」 「やだやだやだやだ!!」 花子は少女から逃げるように部屋の角に移動する。 「ねえ、ほら。仲良くしよ?」 少女は不敵な笑みを浮かべながら花子に近付いて行く。 「いい子だから……お願い……」 その願いが聞き届けられることも無く、少女は花子の前に立った。 「ゆ、許して……」 「汚えんだよこのヨダレ女がぁ!!!!」 これでもかと言うくらいの強烈なビンタの音が部屋に響いた。 「っ!!!!」 「あー………きっつ……」 花子はそのまま尻もちをつき、両手を地面について、下を向いたまま立ち上がらない。花子の髪で表情が見えにくいのも合わさり、勇気はいても立ってもいられずついに机の上のアジャスターをいじり始めた。 「………」 花子が鼻をすする音が聞こえてくる。気まずい。早くモニターの電源がついて、ヘンオンが何か喋り始めて欲しい。勇気はそんな事を考える。 『お、おい何か言えよ。お前彼氏なんだろ?』 モニターのスピーカーから、小声でヘンオンの声が聞こえてくる。 「あ、あぁ……」 勇気はゆっくりと花子に近付いて、花子の肩に手を置いた。 「そ、そんなに汚くないよ!」 『おまっ…バカ……!』 花子は勇気の手を払い除け、急に立ち上がるとその勢いのまま勇気に思いっきりビンタした。 「……あー、スッキリした」 花子は頬をさすりながら少女に笑いかけた。 「言われてやったんだもんね?お嬢ちゃんは悪くないよね?」 そう言う花子の目は笑っていない。 『あーその!!よくやった!…えっと、台本は私が用意したのだ!さあ、次の部屋に進め!早く!!』 ヘンオンが大きな声でそう言うと、モニターの電源が切れると共にガチャリと鉄の扉が開く。 「ほ、ほら行こう花子ちゃん」 勇気は花子の手を取るが、花子はそれを払い除け、無言で次の部屋に向かった。 「……」 勇気は気まずい空気を感じながらも、次の部屋に向かうのだった。
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