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7.枯渇
『突然だが、次の間のネタが尽きた』
「え……?」
明子と涼也は困惑の表情を見せる。
『私だって色々考えていたのだ』
「じ、じゃあ……」
『型抜きとか、綱引きとか』
「あーあー!ダメダメッ!」
明子は咄嗟にヘンオンを止める。
『私は嘆いた。なんでよりによってこんな時に体張る系デスゲームが流行ってしまうんだと……』
「へ、ヘンオン……」
珍しく、涼也でさえ同情するほどの落ち込みっぷりを見せるヘンオン。
『前回の鉄骨渡りはまだいい!それも含めたネタだったから!』
ヘンオンは拳を握りしめる。
『だがもう……私は禁断の手段を取らざるを得なくなってきた』
「ま、まさか……」
涼也は焦りの表情を見せる。
『……もういいから、次の間へ行ってよ。どうせ大したものは出てこないから』
言われるがまま、明子と涼也は次の部屋に進むのだった。
「なっ……!」
「こ、これは!!」
そこには広大な部屋があり、一番奥にはツインテールの巨大な女の子の人形が立っていた。
「あかーーん!!」
涼也の強烈なツッコミが入る。
「でも待ってよく見て!あの有名な人形より全然かわいい!!」
ふわっと広がる長いツインテールは、かのバーチャル歌姫を連想させる青緑色だ。
「いや確かに……ってそんな問題じゃねえ!!」
『ふはは、ようこそ、第7の間へ』
ヘンオンは涼也を無視し説明を始めた。
『そこの首が回転しそうな女の子の人形は、今回は使わない事にした。パクりと言われてしまうからな』
「いやもう充分危険なんだが!」
本来デスゲームは危険なものである。この全く危険がないデスゲームにおいて、ある種別の危険を感じることとなってしまうとは、皮肉なものである。
『ここでお前達にしてもらうゲームは、今までとは一味違う』
「なに……?」
『力を合わせて謎を解け!あるなしクイズ〜!!』
「あるなしクイズだと!?」
「わー、楽しそう!」
明子はヘンオンに向けて拍手した。
『今から出す言葉たちは、それぞれある法則に従って分けられる。そして、問題の単語はどちらに入るのかを答えるクイズだ!全部で3問ある!』
「間違えたら……どうなるんだ?」
『ククク、間違えたら、その巨大女の子人形からクリームバズーカが放たれる!お前達はまたしても真っ白けという訳だ!!』
「間違えるわけにはいかないね……」
「大丈夫だ、俺結構こういうの得意なんだ」
『それでは、ゲームスタートだ……』
『第一問!!』
モニターに問題が表示される。
ある
・回鍋肉(ホイコーロー)
・シュラスコ
・ソーセージ
なし
・みそしる
・たこ焼き
・ざるそば
Q.とんこつラーメンは?
(読者の方も、もしよかったら考えてみてください)
「うわっ、いいとこついてるなぁ」
「難しい……」
明子と涼也は頭を抱える。
「日本料理とそうでない料理とか……?」
「いや、違うな。だとすると、とんこつラーメンがどっちなのか曖昧すぎる」
「確かに……」
『いい忘れていたが、制限時間は2分だ』
「あわわわわ」
明子は慌てて考える。
「姉ちゃん!落ち着け!」
ここで、涼也と明子は姉弟という驚きの事実が発覚する。しかし、ヘンオンはこれを知っていたからあまり驚かなかった。
「多分だけどこれ、料理だから工程に秘密があるはずだ!作る時の事をよく考えるんだ!」
「えーっと……」
・ホイコーローは、豚肉とキャベツ、ピーマンとかを味噌っぽい味するトロトロとあえて炒める。
・シュラスコは、肉とか野菜とかを串に指して焼く。
・ソーセージは、豚や羊の腸に肉を詰める。
対して……
・みそしるは、ダシ等に味噌を加え、野菜などの具材を入れて火を通す。
・たこ焼きは、小麦粉などを混ぜて作った生地を丸い鉄板に流し入れ、タコを入れて丸く焼く。
・ざるそばは、そば粉と小麦粉を混ぜて打ち、茹でる。
そして、
・とんこつラーメンは、とんこつベースのスープに麺が入ってる。
「てかほとんど作った事ない料理ばっかだけど!」
「なにか……なにかないのか……!」
その時、明子はひらめく。
ある、の方の料理にはすべて豚肉などの肉が使われている。
ない、の方は、小麦粉など、植物由来の材料がほとんど。
つまり……
「とんこつラーメンは、ある!!」
明子は高らかに言った。
『…………正解!!』
「やった!」
「……ふん」
お前は何もしてないだろ、涼也。
『なかなかやるな。だが、これはどうだ!第二問!!』
ある
・きゅうり
・ふぐ
・みかん
なし
・たけのこ
・いわし
・いちご
Q.しいたけは?
「ぱっと見すべて食材に見えるな」
涼也は言った。
「でも、あるなしどちらもなにか共通点のある食材には見えないね」
「多分この流れは……ミスリードだ!」
涼也は閃く。
「もっと柔軟に考えるんだ……」
涼也は必死に考える。あと少しで。あと少しでその真実に辿り着く!
「あ、わかった!答えは、ある!」
『正解だ!!2問連続正解とは、なかなかやるではないか』
ヘンオンは明子に拍手をしてみせた。
『漢字にすることで、1字になるか2字になるか……このトリックに気付けるかどうかが正解の鍵だったというわけだ』
明子はガッツポーズをして嬉しそうだ。
『だが、最終問題は難問だぞ?』
「ほら涼也くん、次の問題くるよ!」
「あ…………あぁ……」
『第三問!!』
ある
・水
・ドライアイス
・ルビー
なし
・酸素
・液体窒素
・ダイヤモンド
Q.ガラスは?
「なにこれー!全然わかんない!!」
『難しいだろう?この問題で苦しむがいい!!』
「簡単だ。ガラスは、ある」
あっさりと涼也が答えた。
「ちょっ、もっと考えてから……」
「考えたって無駄だ。答えはもう出揃っているんだから」
『せ、正解だ……まさかこれも当てられるとは……』
涼也はほっと胸をなでおろした。まさか当てずっぽうだなんて、ヘンオンも明子も思ってないだろう。
(補足)
それぞれ、「化合物」か「単体」かでわけられています。
・水→化合物(水 H₂O)
・ドライアイス→化合物(二酸化炭素 CO₂)
・ルビー→化合物(酸化アルミニウム Al₂O₃)
※酸化アルミニウムに含まれる不純物によって色が変わり、ルビーになったりサファイアになったりします。
・酸素→単体(酸素 O)
・液体窒素→単体(窒素 N)
・ダイヤモンド→単体(炭素 C)
※液体窒素は、空気中に最も多く含まれる気体の窒素が、-210℃(沸点)以下になることで液体になった状態のものです。
『……かくなる上は!!特別問題だ!!』
「特別問題!?」
明子は嬉しそうに手を合わせた。
『せっかく作ったクリーム砲だ!絶対に使う!!くらえ!!特別問題!!』
ある
・バートラルブ
・アスノルス
・ネルボルス
なし
・クグレイヌス
・ネプトゥーラ
・アウラルス
Q.ワトブラカは?
「なんじゃこりゃ!?知るか!!」
涼也は派手にツッコミを入れる。
『フフフ、これは私が中学2年の頃にノートにしたためたクリーチャー達の名前だ!!』
涼也は口をあんぐりと開けて呆けている。
「く、黒歴史ノート……難しすぎる!」
明子はそれでもなお真剣に考える。
「ええいままよ!なし!!」
『ざんね〜ん!!』
その瞬間、爆発音とともに巨大女の子人形から大量のクリームが飛び出し、二人の顔はクリームまみれになってしまった。
(補足)
自分の別作品からの出題です。
羽根を持っているかどうかで別れています。
詳しくは知らなくても大丈夫です。そう言うネタです。
「あんな問題……ずるい」
明子は手でクリームを拭いながら頬を膨らませる。
「もしかしたらあれはまだまだ序の口なのかもな……」
涼也は呟くように言った。
「序の口……?」
「ああ。次の部屋、本気で俺達を倒しにくるかも知れない」
明子はつばを飲み込んだ。
「覚悟を決めろ。次の部屋は、本当に負けられない」
明子と涼也は震える手を握りしめ、次の部屋の扉に手をかけた。
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