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8.最後(?)
『ふははははは、よくぞここまでたどり着いたな』
ヘンオンは部屋の奥のソファに座り高らかに笑った。
「ヘンオン……!」
これまで長い事ヘンオンと戦ってきた二人。ここに来て初めて、明子と涼也はヘンオンと対峙した。
『ここまで生きて辿り着けたこと、褒めてやろう』
ヘンオンはゆっくりと、静かな拍手をした。
「散々俺達を弄びやがって!」
涼也は拳を握りしめ、ヘンオンに近付いて行く。
「後悔させてやる!!」
『……』
ヘンオンは、ポケットから拳銃を取り出し涼也に向けた。
『それ以上近付くと、お前が後悔する事になる』
「……!」
初めてそれを向けられる威圧感から、涼也は近付くことができない。
『M1911……古いがいい銃だ』
ヘンオンは自分の手に持つ銃を眺めた。
『100年以上前から使われているにもかかわらず、未だに現役で使われるほどに威力が高い』
「どうせモデルガンかなんかでしょ」
明子は呆れるように言った。
『…………』
「……え、マジなの?」
下を向いて黙るヘンオンの様子を見て、涼也は投げかけた質問がマジであることを察する。
「だ、だっせぇ〜」
『う、うるさい!ホントに本物だったらどうするんだ!!』
ヘンオンは声を荒げた。
『……オホン、それはいい。ここ、最後の間では特別なゲームをしてもらう』
「特別なゲーム?」
『真実を導き出せ!並行思考クイズ〜!!』
「またクイズ……」
「特別感ないな」
ヘンオンは二人の事は気にせず説明を始める。
『並行思考クイズとは、出題者に対してはい、いいえ、関係ないのどれかで回答できる質問をしていって、答えを導き出すクイズだ!』
「へぇ〜、面白そう!」
「俗に言うウミガメのスープだな」
涼也が説明すると、明子はパチパチと小さく拍手した。
『では、出題しよう』
太郎は車に乗って移動し、目的地に向かっていた。
しかし、道中で車が止まってしまった。
最寄りの車屋へは、来た道を歩いてもどっても3時間はかかる。
なので太郎は、車をその場に置き去りにし、歩いて目的地へ向かった。
30分後、太郎は無事に家に帰ることができた。
一体何があった?
「えぇ〜〜」
明子は頭を抱えた。
「質問してもいいのか?」
涼也は手を上げた。
『ああ、いいぞ』
「目的地は太郎の職場か?」
『いいえ』
「じゃあ、私も」
明子も手を上げた。
「そこは車通りが多いですか?」
『関係ない』
明子の表情が曇る。
「えー、わかんないよ……」
「太郎が乗っていた車は、自分の車か?」
『いいえ』
ここで、1歩答えに近づいた二人。
「あ、はい!その車は大きいですか!」
『はい』
太郎は、自分のものでは無い大きな車に乗っていた事になる。
「じゃあ、目的地と家は同じですか?」
『いいえ』
「車に乗っていた目的は、その目的地にたどり着く為か?」
『いいえ』
「車に乗っていた目的は、家に行くためですか?」
『はい』
ここで、決定的なヒントが得られる。
つまり太郎は目的地へ向かう為に車に乗っていたのではなく、家に行く為に車に乗っていたのだ。
「家に行く為に乗る……大きな車で……自分のものでは無い……」
涼也は閃いた。
「……太郎が乗っていた車はバスか?」
『はい』
そう、太郎はバスに乗っていたのだ。バスが停まる、と言う事は……
「バスが止まったのはバス停か?」
『いいえ』
ここで、再び暗雲が立ち込める。
ここまで聞いた二人は、完全に「車屋」のくだりはミスリードだと考えていた。
涼也はそれの確証を得るために、これを聞いたのだが、答えはいいえだ。
このバスはバス停じゃない場所で止まっている。
「涼也くん、聞き方が悪いんだよ」
明子は人差し指を立てて言った。
「バスは故障していましたか?」
『いいえ』
「ほらね。じゃあ、バスが止まったのは目的のうちですか?」
『はい』
つまり、やはり車屋のくだりはミスリード。バスが止まったのは本来の目的を果たす為。でも、バス停ではない箇所で止まったとなれば、もはや答えは出かかっている。
「バスが止まったのは駐車場ですか?」
『はい』
「決まりだね」
涼也はポカンとしていた。まだ涼也はわからない。
「答え!太郎は高速バスで帰宅していて、途中のサービスエリアでトイレに寄った!!」
『正解〜!!!』
ヘンオンは大きな拍手を浴びせた。
『素晴らしい!!ワンダフォー!!』
すると、ヘンオンは後ろから箱を取り出した。
『おめでとう、君達はこのゲームを見事クリアし、最後の間まで生き残った』
そして、箱を明子と涼也に手渡した。
『これは私から君達にプレゼントだ。よくやった』
「うわー、いいんですか?」
「フン、くだらん」
受け取った箱はずっしり重く、明子は早速箱を床において開けはじめた。
「気を付けろ!罠かも知れない!」
涼也が制止した時、既に明子は箱を開けていた。
「わ、お肉だ〜!!」
それは、A5ランク和牛すきやきセット800gと書かれた肉のパックだった。
「え、マジ!?」
涼也も中身を開ける。二人とも中身は同じだった。
『最高のショーを見せてくれたお礼だ。受け取ってくれ』
「ありがとう、ヘンオンさん!こちらも楽しかった!」
明子は嬉しそうに頭を下げた。
『帰りはそこの扉から。外にタクシーを用意している。タクシー代は後に支払っておくから、それで帰宅するんだ』
明子は扉を開けて外に出た。そこは、ひっそりとした森の中にある、秘密基地のような場所だった。斜面を掘られて作られていたようで、後ろには大きな山がそびえ立つ。
「これで……自由だ……」
「うん……長いようで、短かった……」
こうして、明子と涼也は、地獄のデスゲームから見事生還した。
後に二人はそれぞれ家に肉を持ち帰り、明子は両親と、涼也は彼女と共にすき焼きを楽しんだのだった……。
『……フフフ、まさか本当にこのゲームから生きて帰る者が現れるとはな』
ヘンオンは小さく笑った。
「わたる兄ちゃん、負けても肉プレゼントするつもりだったでしょ」
姪っ子はニヤニヤしながら言った。
『そりゃそうよ。いくらゲームを楽しんでもらう為とはいえ、無理やり連れてきてやらせてんだもの。いい思い出になるようになにか渡さなきゃ』
「こらあああああああ!!!」
突然、怒号が響く。
『うわっ』
ヘンオンが咄嗟に振り返ると、そこには完全にヘンオンが忘れきっていた花子と勇気の姿が。
『うわなんだお前ら。まだいたの?』
「まだいたの?じゃないでしょうが!!」
花子は手をグーにしてヘンオンを殴った。グーだよ、グー。そりゃ痛い。
『うわっち!』
ヘンオンは変な声をあげて倒れ込んだ。
「おい花子ちゃん!グーはないでしょグーは……」
勇気は花子を制止するように、ヘンオンとの間に入った。
『す、すみませんでした……』
ヘンオンは泣きながら花子に謝る。
「あ~ムカつく!女の子にビンタされて、山盛りのワサビ食わされて!!」
「まあまあ……」
「勇気くんは黙ってて!!」
勇気は黙った。どうやら花子が怖いらしい。
「ナレーションも変な事書くな!!」
……。
『ゆ、許してください……』
姪っ子は、花子のあまりの威圧感に、ヘンオンの後ろに隠れるように張り付いた。
「絶対に許さない!こんなクソゲーやらされて……お前も同じ苦しみを味わいやがれぇぇぇ!!」
その瞬間、時空が歪み始める。
『うわっ、なんだこれ!!』
「きゃー!」
姪っ子はヘンオンにしがみつく。
「元はといえばこの作品も、私達主人公が別作品から時空を超えてやってきたんだ!今度は私達が本気でこの世界を作り変えて、お前をデスゲームに参加させてやる!!」
「や、やりすぎだよ花子ちゃん」
「勇気くんも手伝えよ!!」
「はい喜んでー!!」
勇気と花子により、この作品の時空は歪んでいく。
「わたる兄ちゃん!兄ちゃんだって作者本人をモチーフにしたキャラなんでしょ!!」
『ああ、本名だって同じだ!!因みに作者本人には姪っ子はいない!!』
「どうでもいいから!なんとかしてよ!」
『うおおおおお…………無理ーーー!!!』
こうして時空の歪みへと飲み込まれてしまったヘンオンと姪っ子。
果たして二人はどうなってしまうのだろうか。
「ナレーション、お前も気をつけろよ」
気を付けます。
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