9-1.変音

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9-1.変音

『あーあ、血出てきたよ』 ヘンオンは、さっき殴られた所をさする。 「兄ちゃん、ここどこ?」 姪っ子は不安そうにヘンオンの服を引く。 見回すと、そこはかつては栄えていた面影を残す、ゴーストタウンと化した廃墟群だった。 『まずい……自分はまだいいとしても、芽実ちゃんを巻き込んでしまった……』 ここに来てようやく、そして初めて姪っ子の名前が「芽実(めぐみ)」という名前であることが判明する。以降、姪っ子の事は芽実と呼ぶ事にする。 「怖い……」 芽実はヘンオンに擦り寄った。 『あー……、確かにコワいわ。急にゾンビとか出てきそう』 「ちょっと!!」 『あ、ごめん。ちょっと願望が……』 何を隠そう、ヘンオンは大のゾンビ作品好きだ。 「てかさ兄ちゃん、その変な喋り方やめたら?」 ヘンオンの声は、少し独特で、妙に気持ち悪い声だ。 『あー、これかぁ。これ、マスクつけてるとこうなっちゃうんだよね』 ヘンオンはマスクのせいにした。 「まあ、こうして外せばちょっとキモめな普通の声になるんだけどね……」 マスクを取ることで、ヘンオンの声の二重かぎかっこは普通のかぎかっこになる。 『こうしてマスクをつけてないと、作者本人と見分けがつかなくなってしまう』 「わかった」 二人は廃墟となった街を突き進んで行く。 【ふはははははは!!!】 更に変なかっこをつけて、突然笑い声が響く。 「うわっ、マスクが壊れた!」 ヘンオンは驚いた拍子にマスクを破損してしまった。そのため、今後ちょっとキモめな普通の声で喋らざるを得なくなった。 「きゃっ……何!?」 【いい気味だねぇ、諸君。私は今、貴方達の脳内に直接語り掛けてるよ】 「この声は……花子!」 ヘンオンは周囲を見渡した。しかし、花子の姿は無い。 【探しても無駄。そこは私がこの世界の時空を歪めて作った世界。そこに私はいないからね】 「そ、そんな……」 芽実は膝から崩れ落ち、地面に両手をつけて打ちひしがれる。 「ますますヤバい……、俺ら帰れるかな……?」 「……兄ちゃんがもっと強かったらよかったのに」 「うっ……それは……」 【ごちゃごちゃとうるさい】 花子は割って入った。 【もういい。諸君にはこの時空でゲームをしてもらう。負けちゃったら……、ホントに死ぬかもね】 「じょ、冗談じゃねぇ……!」 ヘンオンはチッと舌を鳴らした。 【クリアできたら、この時空からは出してあげるよ。私ったら優しい】 「……ヨダレババァ」 芽実は小さく言った。 【聞こえてるぞ】 花子は声のトーンが1つ落ちた。 【まあいい。諸君には、この街で宝玉を3つ探し出してもらう。どこにあるかは秘密。見事探し当てられたらゲームクリアだ】 「兄ちゃん、宝探しだよ」 「ああ……不覚にもちょっとワクワクしている」 ヘンオンはニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべる。 【ただ、残念なことにこの時空にいるのは諸君だけじゃない。ただ探すだけではつまらないので、大小様々な鬼を用意した】 「鬼……!?」 ヘンオンはあたりを見回す。 【そう、諸君を探し出し、追いかけてくる鬼。捕まったらどうなるだろう。少なくとも、命の保証はできないかな】 「……」 【じゃ、スタート。頑張ってね〜〜】 「お、おい!待て!!」 ヘンオンが止めるも、花子の声はしなくなってしまった。 「クソッ……なんだよ……」 ヘンオンは足元の適当な石ころを蹴飛ばした。 「とにかく鬼に捕まらないように逃げる。つまり鬼ごっこって事でしょ?」 「まあ、そうだなぁ…」 ヘンオンは周囲を見回す。どこに宝玉があるかなんて検討もつかない。 「しらみつぶしに探していくしかないか」 「う〜ん……」 ふと、芽実は建物の影にうごめく影を発見する。 「ねえ、あれ何……?」 ゆっくりと、それは姿を現す。 思っていた以上に巨大なそれは、まるで地獄からやってきたかのような異形の、四足歩行の生き物だった。 「ま、まさかあれが……」 「鬼!?」 異形は、こちらに振り返る。よく見ると、額に『わさびシュークリーム』とかかれている。 「ま、間違いない……、あいつに捕まったらわさびシュークリームを食わされるぞ……!!」 「に、逃げなきゃ!!」 その瞬間、鬼は一気にこちらに駆け寄ってきた。 「わあああああ!!!」 ヘンオンは芽実の手を取り、走り出す。 【はははははは、逃げ惑え!!】 この造られし廃墟で、花子による世にも恐ろしいデスゲームが始まった。
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