知らない。

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知らない。

 死んでしまいたいという気持ちは、心の中にずっとあった。  このまま生きて辛いことばかり続くのなら、自分の手でさっさと生涯の幕引きをした方が楽だと思った。  希死念慮は常に私の頭の片隅にいて、私の思考を蝕んでいった。  最後の一歩を踏み出すきっかけは小さなことで十分で、今日通勤のために家を出たところで知らない男子高校生に「ブス」と言われたから、死ぬことにした。  なんか疲れたしもういいか、と思った。  死ぬ場所は既に決めてあった。  自宅から2時間ほど車を走らせたところにある、森の中。  電車への飛び込みも考えた。けれど、「朝から飛び込むなんて迷惑」とSNS上で叩かれるのが怖くて、辞めた。散々痛めつけられた人生なのだ、最後くらいは静かに逝きたい。  今日は私の25歳の誕生日。ずっとあたためてきた自殺計画の決行日がまさか今日になるとは思わなかったけど、きっと遅かれ早かれこの日は来ていたのだと思う。それに今更、25回目の誕生日にたいした思い入れもなかった。  日時は未定だったけれど、計画は完璧に練ってあった。その計画通り、ロープとナイフ、懐中電灯、遺書、そして最後に食べるためのコンビニの鮭おにぎりを黒いリュックに入れて持ってきている。  あまり遅くなると森の中は真っ暗になる。夕方に出てきた判断は正解だったな、とおにぎりを食べながらのんびり思った。木々の間から見える空の色はだんだん柔らかくなり、夕方の光に変わりつつあった。  夏だから、陽は長い。あと2時間くらいは森の中でもライトをつけずに過ごせそうだ。  ライトを使うのはめんどくさいから、陽が沈むまでに死のうと思う。  
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