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私は、散策ルートを外れてかなり歩いたところにある、一本の大きな木の根元に座っていた。1年前に下見に来た時から、この木で死ぬと決めていた。
大人5人が手を繋いでも囲い切れないのではないかと思うほど太い幹から、苔や名前のわからない植物が伸びている。「生命」という題で絵を描くなら、私はこの木を選ぶだろうなと思えるほど、立派な木だった。
私も、この木の一部になりたい。この木の養分として、消えようと思う。
恵まれたとは言い難い人生だった。
幼少期から人付き合いが苦手で、友達も少なかった。
「目つきが悪い」「愛想がない」「性格が悪い」
そう言われ続けたけれど、どうすればいいのかわからないまま、何も言えない大人になった。
家庭環境も最悪だった。父と母は私が幼少期の頃に離婚し、母はその後長らく精神的に不安定になった。
母は同居している祖母と毎日のように喧嘩して、私は家にも居場所がなかった。
2つ上の姉だけが私の味方で、心の救いだった。
父に会ってみたい。そんなことをとても言い出せるような雰囲気ではなくて、結局優しくて穏やかな人だったという父に、私は一度も会ったことがない。
就職も、うまくいかなかった。
希望する会社にことごとく落ち、やっと冬になって内定をもらった会社は、所謂ブラック企業というやつだった。
クズ、給料泥棒、役立たず、そんな言葉を投げつけられながら毎日終電まで仕事をする毎日。
3年目になっても理不尽な叱責には慣れることはなく、ただただ1人で抱え込んだ。どんどん痩せていく私を心配してくれる人は1人もいなかった。
それに加えて、家から逃げるために県外で就職したのにも関わらず、母からは逃れられなかった。
私が働き始めた日から、毎日のように金を無心する電話がかかってくる。私の生活費を削ってお金を渡しても、感謝の言葉1つなかった。そのうちに、電話の音をきいただけで頭が痛くなるようになった。
生きることに、未練などない。
ただ心残りを言うのならば、父に会うことと大好きな姉の結婚式を見られないことが少し残念だけれど。
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