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しかし……とにかく熱い。
遮蔽物のない荒野の真ん中、しかも空に近い岩場の上で私はうんざりしていた。
2月だというのに砂漠に類する気候のせいか、ミティカス鉱山の魔石の影響なのか、矢鱈と気温が高くて体力が持って行かれる。
ローズブラウンの髪が吹き散らかされてうっとおしい。
吹き付ける熱風には砂が混じっていて、ローブマントがザラザラと音を立てた。
「早く終わらせよう。暑くて死にそう」
あまりの暑さに軽く弱音を吐くと、あたりを窺っていたヤコブは色黒の顔にイヤそうな表情を浮かべてこちらを振り返った。
暑いというのに彼もまた黒のローブマントを纏っている。
我々紅騎士団の制服だ。遥か昔に存在したといわれる魔法使いのローブを模したもので、フード付きの黒の布地に紅の飾り縫いが施されており重厚感がある。今はその重厚感さえうらめしいが。
「隊長が言うとシャレになんないっす。頼むから今回は倒れないで下さいよ。隊長連れてこの岩場まで登るのも大変だったんすから、気絶してるのかついで降りるとかイヤですよ。気を失った人間って重いんすから」
確かに断崖絶壁ともいえるこの場所に私の身柄を運んだ彼の努力は涙ぐましいものがあった。
いくらチビでも女性一人を、ほぼ担いだ状態で崖を登るのは容易ではない。
それでも大柄で筋肉隆々とした彼にとっては鍛錬の一環程度の労力なのではないだろうか。
「じゃあ急いでやって。私が倒れる前に」
了解ですという声が私の耳に届く頃には、彼の姿はもう見えなくなっていた。
我が部下ながら素晴らしい。あの運動能力は日頃の鍛錬の賜物だ。
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