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『……もしも好きな人ができたから私と別れてほしいって言ったらどうする?』
ふたりでソファに並んで座っているとき、唐突に尋ねられ目を丸くする。しかし、すぐにそう言われる日がくるかもしれないと思い直した。
『ひとまずひなの言い分をじっくり聞くかな』
彼女を言いくるめて結婚した。この関係に日奈乃が疑問を抱いたときには、今度こそ彼女の気持ちを尊重しないとならない。できるかどうか不安はあるが。
ところが、こちらの心配など吹き飛ばすように続けて日奈乃がまっすぐ告げてくる。
『稀一くんのことが好きだから』
彼女のはっきりとした気持ちを聞くのは、これが初めてだった。受け止めて、自分の中で抑えていた感情が溢れ出す。
愛しくて本当は誰にも渡したくない。日奈乃の心も体も、全部俺だけのものにしたいんだ。
やっと夫婦になれたと幸せを感じながら、結婚前から決まっていた出張に行く日が近づいてきた。離れる寂しさはあるが、不安はない。
まさか帰ってきたその日に離婚してほしいと彼女から言われるとは、このときは露ほども思っていなかった。
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