2015年8月 頼人

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 汗で制服が肌に張り付く。  今日は父が経営する百合ヶ丘学園の学校案内パンフレットのモデルのために上京し、終わって早々に分かれた。父を撒くことに必死だったからスラックスが暑すぎ案件に今更気づく。着替えれば良かったと簡単に後悔しそうになって、そうじゃなかった!と思い直す。   やばいな、暑さで脳までやられて段取り崩壊してる。 「こうじゃなきゃいけなかったんだよ」  脳に擦り込むように声に出して言った。声が普段より少し高い気がして変な感じ。でも、そういうもんか…  記憶している道を辿る。大通りを一本中に入るとそこはもう住宅街だ。昼でも人通りが少ない。空き地にはタイヤが積み上げられ、溜まった雨水の中には黒い点々の球体が浮いている。ボウフラだ。目にしただけでも痒くなる。梅干し見て唾液が溢れてくるアレっぽいけど、梅干しは人間に備わる防御機能らしいから、ちょっと違うか…  くだらないことしか思いつかない。結構緊張してるのかも。  空を見上げた。首を傾ける動作一つでも目眩が起こる。今日も今年一番の最高気温になるんだろう。  
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