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あっという間に、背後から伸びる腕が首へ回ってくる。ごつごつした、見知らぬ男の腕だ。声を出そうとしたとき、耳元で囁かれるのが自分の父親の名前だとリタは気がついた。
「あいつのせいで、俺は全てを失くしたんだ」
首にかかる腕に力がこもる。
「静かにしてろ。そうすれば命までは取らないでいてやる」
「離しなさい。私には関係ないわ」
「関係ないわけがあるか。黙れって言ってるだろ!」
「お父様の仕事のことなど知らないわ。触らないで」
「黙れ!」
リタの耳元で轟音が爆ぜた。短気な男は、右手に空を射抜いた拳銃を握っている。
音の正体を知った人々が、潮が引くように周りから離れていく。悲鳴が上がり、彼らから円を描くように逃れていく。元いた店の中からも驚いた人たちが首を伸ばし、音を聞きつけたシュナが、いち早く飛び出してきた。
「リタさん!」
だが、彼女を見つけて駆け寄ろうとした彼は足を止めた。
彼女の頭には、火を噴いたばかりの銃口が向けられている。
「一歩でも近づいてみろ、こいつの頭ぶちぬくからな!」
周囲の人間に怒鳴りながら、男は見せつけるように引き金に指をかけた。そうすればこの中のだれも、シュナでさえも動くことはできない。
「俺はてめえの親父のせいで金も家も失くしたんだ。そのせいで嫁にも娘にも出て行かれた!」
だから何、という顔をしてリタは冷静に視線で男を見やる。先ほどシュナに見せていたのとは正反対の、冷め切った氷の瞳で。
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