3 重なる指先

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 あっという間に、背後から伸びる腕が首へ回ってくる。ごつごつした、見知らぬ男の腕だ。声を出そうとしたとき、耳元で囁かれるのが自分の父親の名前だとリタは気がついた。 「あいつのせいで、俺は全てを失くしたんだ」  首にかかる腕に力がこもる。 「静かにしてろ。そうすれば命までは取らないでいてやる」 「離しなさい。私には関係ないわ」 「関係ないわけがあるか。黙れって言ってるだろ!」 「お父様の仕事のことなど知らないわ。触らないで」 「黙れ!」  リタの耳元で轟音が爆ぜた。短気な男は、右手に空を射抜いた拳銃を握っている。  音の正体を知った人々が、潮が引くように周りから離れていく。悲鳴が上がり、彼らから円を描くように逃れていく。元いた店の中からも驚いた人たちが首を伸ばし、音を聞きつけたシュナが、いち早く飛び出してきた。 「リタさん!」  だが、彼女を見つけて駆け寄ろうとした彼は足を止めた。  彼女の頭には、火を噴いたばかりの銃口が向けられている。 「一歩でも近づいてみろ、こいつの頭ぶちぬくからな!」  周囲の人間に怒鳴りながら、男は見せつけるように引き金に指をかけた。そうすればこの中のだれも、シュナでさえも動くことはできない。 「俺はてめえの親父のせいで金も家も失くしたんだ。そのせいで嫁にも娘にも出て行かれた!」  だから何、という顔をしてリタは冷静に視線で男を見やる。先ほどシュナに見せていたのとは正反対の、冷め切った氷の瞳で。
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