3 重なる指先

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「復讐だ。あいつにも俺と同じ思いをさせてやる。まずはお前からだ」 「私を殺すの。そんな度胸、ありそうには見えないけれど」 「黙れ!」銃口を再度リタのこめかみに押し付ける。「俺は善人だからな。大人しくしていれば、生かしてやる。勿論、あいつからありったけ奪い取ってやるけどな」  男は台詞を吐きながらちらちらと背後の車道を覗う。どうやら、そこに止まっているタクシーを使って逃げようとしているらしい。 「呆れるわ」  鬱陶しそうな顔をして、リタは言い捨てる。 「どんな取引をしたのかは知らないけれど、それで相手の娘に八つ当たりするのが善人のやることなの? 笑えるわね。家族に出て行かれたのも、あなたのそんな情けないところが原因だったんじゃないかしら」  言葉通り、リタは口元で薄く冷たく笑う。突きつけられているのが玩具だと認識しているような、まるで意に介さない毅然とした態度で。 「この状況で、よくもぬけぬけと」 「言いたいことがあるなら、直接お父様に言えばいいじゃない。それもできないまま、一番弱くて勝てそうだと思ったから、私を選んだんでしょう。残念だったわね。私は、あなたなんか少しも怖くないわ」  氷の女王は、その名をいかんなく発揮していた。美しい微笑をたたえた堂々たる佇まいは、どちらが優勢かさえ見る者に一瞬わからなくさせる。 「あなたみたいな人に、私は負けてあげない。自分の悲劇に一生溺れていなさい!」  言い切ると、彼女は男の腕に噛みついた。悲鳴が上がる。ゆるんだ腕からするりと抜け、リタは駆け出す。
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