3 重なる指先

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「シュナ!」  彼も、今だとばかりに飛び出した。一秒でも早く彼女に触れられるよう、右手を伸ばす。  銃声が轟いた。  周囲の人間が恐怖に声を上げてざわめくなか、シュナはリタを抱きしめ、庇うように男に背を向けていた。 「リタさん」  いつもの、彼女を安心させる力を持った微笑みに、深い安堵を加えて、シュナはリタを見つめた。リタも目を細めて笑いかける。  そして、くたりと、彼の腕の中で崩れていった。  膝を折ったシュナは、軽い音を立てて地面に倒れた彼女の頭と背に、急いで両手をかけて抱き起こす。彼女の背に空いた穴からたちまち溢れる血液が、支えるシュナの左手と地面を真っ赤に染めていく。  弱く咳をする口の端から、赤が一筋こぼれていった。 「ありがとう、シュナ……」  心から安らげる温もりを感じながら、リタは幸せそうに口を小さく動かした。いつだって自分を真摯に見つめる真っ黒な瞳に微笑んだ。  微かに震える右手で、シュナの頬に触れる。親指でそっと撫でる。変わらない、十七年前から何も変わらない、彼の頬。 「うまれ、かわったら……また……」  リタの最期の言葉は、ゆっくりと空気に溶けた。  右手が静かに下りていく。ぱたりと地面に落ちる。 「リタさん……リタさん、リタさん!」  目を見開き、シュナは大声で彼女の名を叫ぶ。握った細い肩を揺さぶり、なんとかして彼女が起きてくれないかと、祈りの名を呼ぶ。  だが、彼女はうるさいとも、やめてとも言ってくれない。されるがままに揺れるだけだ。いつの間にか目尻に浮かんでいた涙が、その拍子にすっと流れ落ちていった。  愕然としながら、シュナは掠れた声をかろうじて漏らした。 「そんな……」  生まれ変わったら、また家族になって。  彼女はそう言って、笑った。  リタは一途にシュナを愛していた。そこでは機械であろうが人間であろうが、そんな問題は些細なことでしかなかった。
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