3 重なる指先

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 彼女の愛情が痛いほどに、機械の彼を突き刺した。リタの想いは二度と溶けない氷となって、燃えるように身体を焼く。その熱を感じながら、シュナは静かに彼女の身体を横たえた。うすく開かれた瞼を優しい手つきで閉じさせ、頬に流れる涙をそっと拭った。  そして立ち上がり振り返る彼の瞳に宿るのは、彼女を殺されたことに対する、どうしようもない怒りだった。激しく燃える炎のようなそれに焚きつけられ、彼は男を睨みつける。  男は再度引き金を引く。一度、二度、三度。二発が胸に吸い込まれ、一発が腕をかすった。シュナは僅かに後ろへよろけ、周囲からは悲鳴が上がる。だが彼の傷口から血は流れない。驚愕する人々の誰かが、「アンドロイドだ」と呟いた。  シュナは怒りに身を任せ、地面を蹴った。  言葉にならない言葉の咆吼。獣のような、それでいて悲しく響く叫びが空気を激しく震わせる。  だが、それに対する男は安堵する。ロボットは何があっても人を傷つけられない。そうプログラミングされている。向かってくるのも、何らかのポーズだけだろう、と。  そう構えていた男の左頬に、振りかぶったシュナの右のこぶしがめり込んだ  音を立てて頬骨が砕け、歯がへし折れる。  口と鼻から血を噴出しながら、男は吹き飛んだ。  ――緊急停止装置作動――  
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