1 シュナ

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 やがて、見晴らしの良い崖の上に来ると、リタは地面から突き出した石灰色の岩場に腰を下ろした。そのサンダルの足元ではさらさらと草がなびく。斜面を少し下ると足場は崖に落ち、遥か下では白い波が大地を削っていた。  シュナは彼女の横に立ったまま、彼女と同じ水平線を目に映した。眩しい陽光を反射する青い海はきらきらと輝き、穏やかに波打っている。気温も湿度も申し分ない。日差しは少し強いが、帽子を拒んだお嬢様にその事を告げても機嫌を損ねるだけだろう。ただ、このまま半刻も経つようならば、熱中症の危険を促さねばなるまい。 「シュナ」  よく通る彼女の声。 「はい」 「あなたは、私の何なの」  体の後ろに手をつき、彼の方を見ないまま問いかける。その真意を計れず、「何、とは」とシュナは問い返した。 「そのままの意味よ。親? 兄弟? まさか友だちだなんて言わないわよね」 「僕は、お嬢様の「もの」です」 「ものってなによ」 「十年前に、旦那様からお嬢様に与えられました。その時から僕はお嬢様をお守りさせていただく存在となりました。それにどんな名前をつけるのかは、お嬢様の自由です」  ふうんと鼻を鳴らした彼女は、ちらりと彼を見上げると、軽く足を振った。ぽんと右足の白いサンダルが脱げ、斜面を二度三度転がる。
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