1 シュナ

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「拾って」  意地悪く赤い唇を微かに歪ませるのに、シュナは返事をすると大人しく斜面を下りサンダルを拾った。 「履かせなさい」  シュナは右手にサンダルを下げ、彼女の前に片膝をつく。無作法に突き出された彼女の右足にそれを履かせると、後ろのベルトをパチンと締めた。彼の銀色の髪をした頭が動き、対の黒い瞳が彼女を見上げる。 「キスしなさい」  えっと彼が声を漏らす。 「私のつま先。早くして」  彼のためらいは、その行為への恥辱などではなく、彼女の言葉が意味することを理解できなかったからだ。こんな命令は初めてだ。見上げる彼女はどこか勝ち誇ったような表情をしている。  数瞬のち、それでも迷うことなく、彼はゆっくりと頭を垂れた。  その間、時間にして二秒ほど。  キスを終えたシュナは顔を上げ、リタに微笑んだ。 「お顔が赤くなっておられます。少し、日差しが強くなってきました。まだこちらに居られるなら、僕が帽子を取ってきます」  立ち上がった彼は、不自然に俯く彼女が「お願い」と囁くのを聞いた。
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