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2 氷の女王
そして七年が経つ頃には、リタはシュナの見た目をほんの数年上回り、身長も殆ど変わらないほどに成長していた。
父は最近取引相手との揉め事に苛立っており、それはリタの気にする必要のないことであったが、彼女は夕暮れの時分、ひとけのない海岸へ向かった。勿論、シュナをつれて。
橙が徐々に薄まり、夜の群青が空を覆っていく。一番星が頭上に輝き、穏やかな春の風が彼女の髪を緩やかに揺らす。波音は静かだ。
「お嬢様、そろそろ帰りましょう。陽が暮れてきました」
夕闇の水平線を、砂浜に腰を落として飽くことなく眺める彼女の後ろで、何も言わずにいた彼が一歩近づく。「……いや」彼女は呟いた。
「旦那様も奥様も、心配されます」
「心配なんて、誰もしてないわ」
「心配しておられるから、僕を与えたのです」
少し口を閉ざした後、リタは立ち上がり服の砂を払った。
彼女は随分と美しい少女に育っていた。目鼻立ちは形よく整い、手足はすっきりと伸びている。「立てば芍薬、座れば牡丹」という言葉がぴったりだ。
それも一因となっているのだろう。リタが学校で「氷の女王」と呼ばれていることをシュナは知っていた。我が儘はいつしかなりを潜めたものの、その歯に衣着せぬ物言いや、毅然とした眼差しは、彼女への近寄りがたさを生んでいた。そしてそのあだ名が、彼女が望んだものではないことも、彼は知っていた。それでも、そんな氷を溶かそうとした者がいたらしい。
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