2 氷の女王

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「今日、告白されたの」  振り返った彼女は、突然の言葉に微かに驚きをあらわにする彼を目にした。僅かに黒い瞳を見開いたそれは、彼にプログラムされた豊富な表情のパターンの一つだった。 「それは……おめでとうございます」  彼の回路は、今もっともベストだと思われる言葉を紡いだ。そして、再び驚きに表情を変えることとなる。「断ったの」彼女はそう続けたのだ。 「その方を、お嬢様は、お嫌いだったのですか」 「いいえ。良い人だと思うわ」 「では、どうして」  空には二番星が現れ、次第に数え切れない星々が輝きだす。煌く月の光に、彼女の白い肌が照らされる。 「ねえ、シュナ」  容易には回答を与えず、彼女は微笑んだ。 「あなたはなぜ、人間ではないの」  リタが笑うと、シュナも鏡のように柔らかく微笑む。 「僕はアンドロイドです。ですが、お嬢様は、僕を人間のように扱ってくださいます。とてもありがたいことだと受け止めております。それでも僕は、人間にはなれません」 「私と一緒に、大人になることはできないのね」 「身体のパーツを交換していただければ、あるいは」 「そういうことじゃないわ」  くすくすとリタは笑った。彼女の意図を汲めない彼も、どこか困った顔のまま口元で微笑んでいる。 「人間になりたいとは、思わないの。私たちみたいな」 「……思いません」  シュナは、ゆっくりと首を横に振った。銀色の髪がさらさらと揺れる。 「人間は、いつしか死んでしまいます。僕は、死なないから求めていただいているのです。潰える身体では、とてもではありませんが、お嬢様をお守りすることはできません。人間であれば、十二年前に、僕は死んでおりました」
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