2 氷の女王

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 それはリタの最初の記憶。銃声と、喧騒と、悲鳴と。覆い被さる温もりと。それは体温維持装置によって保たれた、まるで人間のような温かさ。  『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない』  過去に唱えられたロボット三原則の一つ。それを彼は忠実に守った。第一、守らなければ緊急停止装置が作動し、今後二度と活動することは叶わなくなる。  リタの保護を命とする彼は、それでも決して暴漢たちに反撃することはなかった。逆上する相手に銃撃され、その身に十発を超える弾丸を受けようとも、彼女を抱きしめて動かなかったのだ。  その後、彼が修理に出されていた数日間、余りある寂しさと不安に毎日泣いて過ごしていたのを、リタは覚えている。 「人間の身体となれば、僕にはここに置いていただく理由がなくなります。厚かましい言葉ですが、お嬢様のおそばにいることが、僕の幸せなのです」 「……ばかね」  リタは囁くと、細い右手を彼の頬に当てた。人間とまるで違いのわからない柔らかな感触。温もりと、肌のなめらかさ。十七年前から、なにひとつ変わらないもの。 「あなたがどんな姿でも、私はあなたを手放したりしないわ。そんなこと、とっくに理解していると思ってた」  左手も彼の頬に添える。リタの青い瞳に、シュナの黒い瞳が映り込む。じっと見つめると、彼女は静かに顔を寄せた。  一息つく程度の、短い時間。  唇と手を離した彼女が目にしたのは、相変わらず穏やかな彼の顔だった。これが童話であるならば、彼にかけられた呪いが解けるのに。
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