2 氷の女王

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 ふいと横顔を向け、砂を軽く蹴る。 「その、お嬢様っていうの、やめなさい」 「では、なんとお呼びすれば」 「リタでいいわ」 「それは、できません」 「そうね。お父様たちの前では、今まで通りでいいわ。けれど、二人でいるときは名前で呼びなさい」  突然の言葉に、シュナは「それでも」と食い下がる。 「いいの。命令よ。聞きなさい」  強引に迫られ、渋々と頷いた。 「わかりました。リタ……さん」 「それでいいわ」  くすりと笑い、いたずらな視線でリタは彼を見る。どんな無茶な命令でも、それでリタに危害が及ぶ可能性がなければ、彼は彼女が笑うと笑った。今も目を細めて、穏やかに笑っている。  それは全てプログラムだ。護衛とともに人間のそばに寄り添うことを目的として製造された彼は、相手を安心させる表情を保つように造られていた。対象の警戒を解き、幼い子どもにも安心と親しみやすさを感じさせるよう、研究された顔をする。  だが、感じる彼の温もりは、それだけではないこともリタは知っていた。自分の記憶にないうちから彼は自分を育てている。これは、そんな母親じみた相手への感情でもない。その点でいえば、彼は母親などより遥かに心を占める存在だ。
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