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雌雄を決する 1/10
対戦ゲームは感情の強さで雌雄を決することがある。
「くそっ。負けちまったじゃねえか!」
昼休み時間、怒鳴り声が教室中に響いた。
僕は読んでいた本から顔を上げた。
安藤アツシが一緒にゲームをしていた保坂ユキを責めているところだった。
「おい、ユキ! 最後の動きは何なんだよ。あそこは守りじゃなくて攻めるタイミングだったろ?」
「ごめんね。あっくん。敵が怖くて飛び出せなくて」
「毎日一緒にやってるんだからいい加減に息を合わせろっての」
「本当にごめんね。次こそは上手くやるね」
保坂ユキは謝りながらゲームを続けている。
またか、と僕は心の中でため息をついた。
安藤と保坂ユキは一ヶ月前から交際しており、昼休みはいつも一緒に同じゲームをやっている。
初めはつつましかった光景も、最近は安藤が保坂ユキに感情をぶつけるようになってきた。
安藤はいわゆるモラハラ彼氏だった。
うちのクラスでそれを知らない奴はいないが、誰もが見ないフリをしている。
とはいえ今日の安藤は特に酷かった。
僕は読んでいた本を閉じ、立ち上がって安藤の席まで移動した。
「いい加減にしろよ、安藤。ゲームで勝てないことを保坂さんのせいにするな」
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