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アスファルトの上で靴が移動する音が鳴る。体を横に向けたその人は、顔だけを私の方に向けて目深に被ったフードを頭の半分まで持ち上げた。
街頭に照らされた髪は、アッシュグレーに染められている。端正な顔立ちにきめ細やかな肌は、私よりも年下にも見える、男性だ。
口は真一文字に閉じられ、重い前髪から覗く一重なのに大きな瞳に虚な色が見えて、アンニュイな印象を持つ。
その瞳は、私をぎろりと睨みつけていた。人を遠ざけるような、不良少年がガンを飛ばすような突き刺す視線に背筋が凍る。
(まずい、恐い人に声をかけてしまった……)
こういう時は、目線を下げてじりじりと後退してある程度距離を取ったら逃げるが勝ち。いや、これは野生の熊と対峙した時に逃げるやり方だったか?
真一文字に閉じられた口が、僅かに開いて空気を吸い込む音がした。
「……あざっす」
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