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#1 テナーサックス
控えめな照明が、カフェに設置されている小さなステージを照らしている。
ステージにいる数人の演奏者が、各々異なる形の楽器の音を鳴らしてひとつの曲を奏でていた。
夜の雰囲気に見合った静かでムーディな曲に、居合わせた客は聞き惚れている。
しかし、その雰囲気は崩れ始めた。周囲がざわめき出したので何事かと見れば、ひとりの人物がステージ上に駆け上がっていた。
全身黒の服で、目深にフードをかぶっていて性別は分からない。体の半分ほどの大きさの、S字型で金色の楽器を首からさげていた。
確かあの楽器は、テナーサックスと言ったか。
その人物は、スタッフの制止も聞かずに楽器の先端を口に含んだ。
テナーサックスに息を吹き込むと、色っぽい低音が辺りを柔らかく包み込んだ。伴奏の上を優雅に踊る踊り子のように、妖艶な音色を響かせている。時折掠れる音が、色気を演出していた。
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