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「でもさ、たまには感情むき出しで、仮面を剥いだ自分を分かって欲しいって思うこともあるわけ。相手を傷つけないように感情を表現できるものがあれば良いんだけど」
「それなら良いものがあります。ちょっと待っててくださいね!」
久美さんは急いで職員室に向かうと、自分のデスクの脇から黒いケースを持って再び屋上に上った。
充希君は律儀に待ってくれていて「何それ?」と黒いケースを指差している。
留め具を外し蓋を開けた先、三つのパーツに分かれた金色の楽器が、日の光を浴びて燦然と輝いていた。
「テナーサックスです」
パーツを組み立ててストラップを取り付け、首にかけた。
「では、聞いてください」
「は?」
戸惑う充希君をよそに、周囲の空気を肺いっぱいに取り込んで、テナーサックスに吹き込んだ。
温かくて優しいテナーの音色が、青い空へ響いている。心を込めて演奏しているのが私にも分かった。
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