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ティッシュで適当にマウスピースを拭き、充希君に吹くよう煽った。渋々なのか、恐る恐るなのか、充希君はマウスピースを咥えて息を吹き込んだ。
ブー、という色気も何もない音が鳴る。
「先生みたいな音出ないんすけど」
「練習あるのみ! ちょっと息を吹き続けてみてください」
言われるがままに、充希君はテナーサックスに息を吹き込み、ブーという音を鳴らしている。久美さんが立ち上がったのか、画面が充希君の背中を映した。
久美さんの両手は、充希君を後ろから抱くように包み、サックスのキーを手早く押した。
ブーという音だったものが、音階を鳴らしてそれらしいものに変わる。
「って、何すんすか!」
マウスピースから口を離した充希君は、後ろを振り返って抗議した。その顔は、リンゴのように赤らんでしまっている。
「指の動かし方を教えただけです」
「いや、後ろからって……マジでビビった……」
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