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私の知らない充希君がそこにいる。何だかもどかしくなってきた。私といる時も、楽しい顔をして笑っていてほしかったな。
テナーサックスを丁寧にケースに入れると、充希君は颯爽と立ち上がった。
「そろそろ帰るわー。腹減ってきたし」
「明日、放課後は視聴覚室に来てくださいね」
「何で」
「大事な話がありますので」
「はいはーい」
扉の前で歩みを止めた。体を反転させて向き合うと、満面の笑みが視界に広がっていく。
「練習付き合ってくれてありがとう、久美先生」
充希君の笑顔は、愛想笑いではない心からの笑顔のようで、見惚れるくらいに綺麗だった。
明る日。充希君を連れ立って視聴覚室の扉を開けると、五人の先客がいた。
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