#5 ジャズバンド

16/37
前へ
/324ページ
次へ
 私の知らない充希君がそこにいる。何だかもどかしくなってきた。私といる時も、楽しい顔をして笑っていてほしかったな。  テナーサックスを丁寧にケースに入れると、充希君は颯爽と立ち上がった。 「そろそろ帰るわー。腹減ってきたし」 「明日、放課後は視聴覚室に来てくださいね」 「何で」 「大事な話がありますので」 「はいはーい」  扉の前で歩みを止めた。体を反転させて向き合うと、満面の笑みが視界に広がっていく。 「練習付き合ってくれてありがとう、久美先生」  充希君の笑顔は、愛想笑いではない心からの笑顔のようで、見惚れるくらいに綺麗だった。  明る日。充希君を連れ立って視聴覚室の扉を開けると、五人の先客がいた。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加