白衣の戦士 恋慕

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白衣の戦士 恋慕

「いいか葵。僕たちは深く愛し合うカップルだ。そこを忘れないように頼む」 なぜか、二人の関係の親密度を確認する桐生。 「深く愛し合うって・・・・・・まぁ、つき合っている設定だから。だからって、私にどうしろと・・・・・・」 小声でぶつくさと呟く葵。 「何?」 「いいえ、健さん」 作り笑顔で微笑む葵。 「よし。完璧だ。では行こう」 葵は桐生に流されるように、彼の実家が経営する病院を訪れた。 「大きい・・・・・・」 噂には聞いていたが、桐生の実家はその街でも有名な総合病院を経営していた。 公立病院とは違い、建物の外部から内部まで都会的で洗練されたつくりの病院だった。 桐生の彼女の振りをして、彼の後をしずしずと歩く葵。 エントランスでコンシェルジュが桐生に気づき、丁寧にお辞儀をして出迎えてくれた。 「お帰りなさいませ。健さま。只今院長先生にご連絡いたします」 「ああ、ありがとう」 「こちらのお嬢様は」 ――お嬢様・・・・・・私のこと?独身に帰った気がしてこそばゆい。 「東雲葵さんだ」 「東雲葵です」 葵は丁寧に頭を下げた。 嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。 吹き抜けのエントランスは天窓から柔らかな自然光が差し込む造りとなっていて、開放的な空間は高級リゾートホテルそのものだ。 ソファーは病院のそれと感じさせない上品なデザインと機能性を兼ね備えている。 壁は柔らかな色目で、落ち着きある雰囲気。これならば長時間待たされても苦痛ではなさそうだ。 葵は随分、場違いなところに来てしまったと酷く後悔した。 桐生の結婚相手はさぞかし大変だろうと、彼の将来の伴侶に憐みの感情を抱いた。 先程から、周りの視線が酷く痛く感じる。 桐生に気づいた若い医療従事者の女性たちは、皆黄色い声を上げ色めきたっている。 葵の存在に気づくと、皆冷たい視線を送っているようにも感じられた。 ――さすが次期院長と噂されるだけのことはある。女連れならば気になるに決まっているよね。でもね、違うから。桐生先生には悪いけど、早く家に帰りたい・・・・・・ 「健さま、院長先生は只今会議中でございまして少しお待ちいただくことになります」 「では、父には『後程』とだけ伝えてくれ」 二人は病院を後にした。 「疲れたろ?」 「はい。緊張しました。それにしても、大きな病院だったのですね」 「ああ、そうか?」 いいところのお坊ちゃんも大変なのだと感じた。 「それで、これからどこに向かうのですか」 「今日宿泊する宿だ」 葵は車窓から、初めて見る街並みを見つめていた。 古き良き時代の日本の美しい街並みに胸が躍った。 「さあ、着いたよ」 それは立派な老舗旅館だった。 通されたその部屋は、本館から離れとなった場所。 一泊の値段を想像しただけでも一生 泊まることのない部屋だと、そう感じた。 部屋は、十畳の和室が二間、浴室、洗面台、外には立派な日本庭園を望めるプライベート露天風呂、そして寝室は大人が三人ゆうに寝られる程の大きなベッドが一つ。 「あ、あの、こんなに高いお部屋でなくてもよかったのでは・・・・・・」 「ああ、ここは家が贔屓にしている旅館だ。実家で勝手に用意したから気にしなくていい」 「ですが・・・・・・」 桐生の両親を欺く自分が、このような待遇を受けることに罪悪感を覚えた。 「好きに使ってくれて構わないよ」 「ありがとうございます。ではそうさせていただきます。先生は、ご実家に戻られるのですよね」 「いいや。ここに泊まる予定だが」 「え・・・・・・?」 「最初の設定を忘れたか?僕たちは愛し合うカップルだと。実家に帰りでもしたら不審に思われるだろ」 葵は固まった。 局別、別々の部屋で休むことで手を打った。 「夜まで時間があるから、少し観光にでも出かけるか」 葵は瞳を輝かせた。 桐生と観光巡りから戻ってきた葵は、夜の食事会のことをすっかり忘れていた。 想像しただけでも気が重くなったが、食事会迄にはまだまだ時間があった。 「葵、僕は用事を済ませてくるから、それまで寛いで待っていてくれ」 そう言って桐生はどこかに出かけていった。 葵は部屋でゆったりと寛ぐことにした。 暫く経っても桐生が戻っこない。葵は美しい庭園を眺めた。 「ただいま~待たせたな」 桐生はいくつもある部屋を探しまわった。 「葵、どこだ?・・・・・・出かけたか?」 葵を探しながら何気に庭の露天風呂を覗いた桐生は、息を呑み言葉を失った。 そこには衣服を脱ぎ始める葵の姿が。 桐生はその光景に生唾をごくりと呑み込んだ。 それはまるで、天から舞い降りた女神の水浴びをこっそり覗き見てしまったような瞬間だった。 (なま)めかしい裸体を惜しげもなくさらけ出し、髪を無雑作にまとめ上げる妖艶な仕草。 逸る心臓の鼓動はドキドキと張りつめ、どうしようもない程高鳴ってどうにかなってしまいそうだった。 光を孕む真っ白な素肌。後れ毛が色っぽい白いうなじ。体に似つかぬほどふくよかで美しい胸に釘付けとなる。 くびれたウエストから丸みのあるヒップ、すらりと伸びた脚・・・・・・エロティックな様に、欲情をそそられた。 葵は桐生の存在にまだ気づいていない。桐生は葵から目が離せなかった。 ――俺は何してる?これではただの覗き見じゃないか! 我に返った桐生は葵に気づかれないように、そうっと部屋を後にした。 一時間程して部屋に戻った桐生は、着替えを澄ませた葵を見てホッとした。 ほんのりと頬を火照らせた様に、わかっていても心臓がドキンと跳ね上がる。 「どうした?頬が赤いぞ」 知っていてもつい質問してしまう悪い男。 「実は先程、先生が留守の間にこっそり庭の露天風呂に浸かりました。あまりにも気持ちがよかったので、少し長湯をしてしまいました」 ――うっ。こっそり見ていたのは僕なのだが・・・・・・ 先程の葵の艶めかしい姿が思い出され、やっと鎮まったそれが再び起き出した。煩悩を断ち切ろうと必死に葛藤する桐生。 「そうか、それはよかったな・・・・・・。あ、そろそろ時間だ。行ってみるか」 「ああ、緊張します。ご両親を騙すなんて・・・・・・バレないでしょうか・・・・・・」 「大丈夫だ。僕が何とかする」 葵は桐生の彼女として、彼の家族と食事会に出席することになった。 二人は旅館の広大な敷地内に佇む、ライトアップされた美しい日本庭園の建屋に案内された。 ここは、懐石料理と温泉が楽しめる老舗高級料亭旅館でもあった。 「君は必要以上に話さなくていい。僕に任せて合わせてくれるだけでいいから」 葵は緊張した面持ちで大きく頷いて見せた。 「お連れ様がお見えになりました」 「どうぞ」 部屋の中から貫禄がある男性の低音ボイスが響いてきた。 料亭の厳かな和室に通された葵は、マナーに従い部屋に入った。 そこには、ロマンスグレーの見るからに気難しそうな男性が待ち構えていた。 「おお、健。久しぶりだな。元気にしていたか」 「ああ、父さんもお元気そうで」 桐生の父親は葵を値踏みするように見つめた。 「で、こちらのお嬢さんは?」 「父さん。僕が結婚前提にお付き合いしている東雲葵さんです」 ――え!?今何て?結婚前提って言った?ただの彼女じゃないの?打ち合わせと違うじゃん! 「おお、例の・・・・・・」 「お初にお目にかかります。東雲葵と申します」 葵は、和室のマナーに準じて畳に手をつき挨拶をした。 どこで身につけたのか、その美しい所作にその場に居合わせた誰しもが彼女に釘付けとなった。 「ほ~。私は健の父、桐生聡一郎だ。君のことは話には聞いている。まあ楽にしなさい」 そこには桐生似の母親と、若い女性の姿もあった。 二人は案内された席にそれぞれ着座した。 家族の自己紹介が済み、若い女性は桐生の妹ということがわかった。 桐生の妹、麻里江は葵を値踏みするようにじっと見ていた。 葵は、蛇に睨まれたかえる状態だった。 あまりにも見るものだから、偽装彼女がバレたであろうか。 バレたらバレたでもうどうしようもないと、桐生に悪いがある意味開き直ることにした。 食事が始まると、家族から矢継ぎ早に尋問のような質問がなされた。 桐生が手ごわい両親といった理由がよくわかった。 葵は何処まで答えていいか困惑した。きっと、桐生の交際相手にふさわしくないと感じとったに違いない。まぁ、無理もない。 桐生は、質問を上手に交わしていた。いつものことなのだろう、そう思った。 「葵さん、お酒はいける口か?」 桐生の父親は葵に酒を勧めてきた。 「父さん、彼女はお酒に弱いんだ。あまり無理させないでくれ」 桐生は慌てた。 「はい。嗜む程度に・・・・・・」 葵は、聡一郎の酒につき合うことになった。 家族はどこか引いているようにも感じられた。それが意味するのは。 桐生聡一郎は大の酒豪家。酒の席で彼の進める酒を断ろうものならば、血相を変え怒りをあらわにするのだ。 だが、酒に強い父に敵う者はおらず皆潰されてしまい、結果彼は不機嫌になる。 それが原因で、過去に辞めていった医師がどれほどいたことか。 だが、今夜の聡一郎はいつもと違う。葵のお酌に頬を赤らめ上機嫌だった。 葵も聡一郎から勧められたお酒を断ることなく飲んでいた。 彼女は酒に強いのか?そう思ったがそうではなかった。 葵は、酔っ払いの扱いが上手なのだ。聡一郎に酒を勧められる葵は断らず受け、それ以上に父親を酔わせていた。 酒に酔った聡一郎は自分の考えを相手に押し付ける悪い癖がある。 質問しておきながら、意見などされるものならば機嫌を損ねるのだ。はっきり言ってたちが悪い。 「今日の日本人は皆根性なしでけしからん。日本人は平和ボケしすぎている。日本の美ともいえる、武士道やかつて恐れられた大日本帝国軍人のような強い精神はどこへいってしまったものやら。わしは残念でならない。日本は戦争に負け属国に精神までも落ちだのだ」 始まった。もともと桐生家の先祖たちは殿様に仕えた名のある武士の家系。 時代と共に軍人、医師たちを世に輩出してきた名家でもある桐生家。 その家の跡取りとして生まれた父は、厳格な祖夫に武士道を叩きこまれ厳しく育てられた。 現代人には手ごわい存在でもあった。 「そう思わないか、葵さん。日本人は駄目な種族に堕ちたものだ」 「父さん、彼女にそのような話は相応しくないと思います」 「わしは葵さんに聞いているんだ。どうだ。どう思う」 葵は何かを試されているようにも感じた。 「・・・・・・私は正直、武士道精神が何たるものか、軍人としての生き様がどうあるべきかはよくわかりません」 これまで、聡一郎の意見に皆そうだと答えてきた。聡一郎は自分に意見を述べるものが好きではなかった。彼は葵の発言に怪訝な表情を浮かべた。 家族が凍り付く瞬間だった。 「ですが、私が歴史から学んだことは、先人たちの生きた証こそが今の日本を作り上げてきたということです。そこには、国民一人一人に美しくも儚い物語があり。生きるために、愛する者たちを守るために、生きるその様は今も昔も変わらず同じなのだと。生きることは喜びばかりではなく、時に挫折し、絶望を味わい涙することもありましょう。それでも立ち上がり未来を見据えて生きていく。身分や時代背景こそ違いはありますが、子供たちは皆そんな親の背を見て育ち、その精神は受け継がれてきたのだと思います。いつの世も、生きるということはそれなりの覚悟と強い精神力が必要かと・・・・・・日本人のDNAにはそういった先人たちの誇り高き精神が受け継がれているものと、私は思うのです。有事の際に日本人がとった当たり前の行動が、世界中の人たちから賞賛されたように・・・・・・」 葵は、聡一郎に自分の考えをしっかりと述べた。 「・・・・・・よくぞ、言ってくれた・・・・・・」 難しい顔をした聡一郎の一言に家族は皆凍りついた。 しばしの静寂が続いた後、再び父親は語り始めた。 「健!・・・・・・いい嫁を見つけたな・・・・・・大事にするんだぞ」 そう言って二人の交際どころか、結婚までも認められた。 桐生は嬉しそうに破顔した。 ――本当に君って人は不思議な人だ・・・・・・人の心を惹きつける天才だな・・・・・・ 葵を柔らかな眼差して見つめた。 さあ、大変なことになった。まさかこんなことになるとは思いもしなかった。 桐生の家族を欺いている罪悪感に、葵の胸中は複雑だった。 そんな葵を桐生の妹麻里江はじっと見つめていた。 それから聡一郎は葵を酷く気に入り、彼女の手を握ってはデレデレする父は我が嫁のように接していた。 すっかり意気投合した二人の会話は弾み、桐生の入る隙が無かった。 「葵さんは映画は好きか」 「はい。大好きです」 「さすがに、戦争映画は見ないだろうな」 「いいえ。ほとんど見てますよ」 「ホントか?では、あの映画を知っているか」 「はい。ヘリコプターで騎兵隊のような奇襲シーンは圧巻でした」 「そうか?ならばあの映画はどうだ?」 「確か、あの撮影のために本物の零戦を飛ばしたのですよね。まだ飛べる零があるなんて凄いことです!」 「ほー!よく知ってるな~」 「これは古くて、さすがに知らないだろ」 「パラシュートが時計台に引っ掛かり、時を告げる鐘の音に難聴になってしまった兵士の話があったような」 「そんな昔の作品まで知っているのか?」 「はい。父が無類の映画好きでして。物心ついたころから見て育ちましたから」 そこは、聡一郎と葵の二人だけの世界となっていた。 父親に嫉妬の感情さえ覚え、桐生は面白くなかった。 「葵、少し庭へ散歩に行かないか」 葵を連れ出すことに成功した。彼女は安堵の表情を浮かべていた。 そうはいっても、強い酒を飲まされた葵は足元がおぼつかなかった。 「大丈夫か」 葵は、桐生に手を引かれライトアップされた美しい夜の庭園を散歩した。 「葵、父が手ごわくてすまない」 「いいえ。素敵なお父さんですね。それより、どうしましょう。すっかりお父さんに気に入られてしましました。嘘だとバレたら、それこそ大変です」 「ああ、それか・・・・・・それならば心配しなくてもいい。しかし驚いた。あの父がね・・・・・・君はすっかり父のお気に入りだな。やっぱり思った通り君は凄いんだな・・・・・・」 感慨に浸る桐生。 「あの、もう手を離していただいても・・・・・・」 「そう言われると、余計に離したくないな」 桐生は、葵の手を両手でぎゅっと握りしめ向き直ると、真剣な面持ちで葵を見つめた。 すっかりお酒に酔った葵は、頬を薄紅色に染めてトロンとした目で恥ずかしそうに視線を泳がせた。 「葵・・・・・・君の離婚が成立したら、僕と結婚してくれないか」 それはまさかのプロポーズ。葵の心臓が止まるかと思った。 「冗談はやめてください!」 「僕は、いつだって本気だ」 「それは・・・・・・できません」 「どうして」 「私には子供がいます。それに、たとえ結婚していなかったとしても、私はあなたに相応しくありません」 「君に子供がいようがいまいが、僕は気にしない」 「そういうわけにはいきません!」 「葵。僕のこと、好きか嫌いかの二択で答えるとしたら?どっちだ?」 「・・・・・・嫌いでは、ありません・・・・・・」 「素直じゃないな。それならば、嫌でも好きと言わせてみせるよ」 にっこりと微笑む桐生。 「えっ!?何を・・・・・・」 ただでさえお酒に酔ってふわふわとした気分のところに、思考が追いつかずただ困惑する葵。 「葵・・・・・・僕は今、キスしたい気分だ」 「!?ダメです!」 「どうして?またどうにかなってしまいそうで怖いのか?」 ふわりと笑う桐生。 「・・・・・・」 葵は怖かった。桐生にほだされていく自分が。いけないとわかっていながら、彼を本気で愛してしまいそうな自分が。 「僕は、君がどうにかなってくれた方が嬉しいが・・・・・・」 桐生は、葵の腰と後頭部に手をまわし彼女が逃げられないように強く引き寄せると、唇を奪った。 「ん、んっ・・・・・・」 葵は桐生の蕩けるような甘い口づけに酔わされていく。 口づけがこんなにも心地いいものだったと、彼に教えられた。 桐生の甘い口づけは葵には媚薬のように作用し、身も心も蕩けてしまうような感覚に陥る。 一種の中毒症状にも似たこの感覚の虜となってしまった葵。 桐生は、長い口づけに「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」と息を上げ頬を染める彼女の艶っぽい表情に情欲を搔き立てられた。 彼は無言のまま葵の手を引き、再び歩き出した。 「先生?どちらへ?皆のところに戻るのでは・・・・・・」 桐生は部屋に入ると後ろ手にカギを閉め、葵を抱きしめた。 「桐生、先生!?」 葵を壁に押し付けるとゆっくりと迫り、優しい口づけを落した。 「んっ・・・・・・」 桐生は、葵の顎を引き上げ唇を重ね合わせながら、唇を優しく挟んだり甘噛みするようなバードキスで彼女を誘惑する。 「君が・・・・・・欲しい・・・・・・ダメか・・・・・・?」 葵の耳元で甘く囁く桐生の熱い吐息と掠れた声音に「あっ」と声をあげピクリと反応してしまう葵。 その反応に煽られる桐生。 「ダメです・・・・・・」 抗う葵の唇を再び奪う桐生。 甘美なる口づけは蕩けるような濃厚な口づけに変わり、葵は官能的な口づけに身も心も熱く焦らされていく。 桐生は、葵をひょいと抱きかかえ寝室へ移動する。 「先生!?」 彼は、無言のまま葵をベッドに押し倒した。 「いけません!このままでは、後戻りできなくなります!」 「それでいい・・・・・・今は何もかも忘れて、僕だけのことを考えるんだ・・・・・・」 桐生の唇は、葵の滑らかな素肌を舌で捉え、耳から首筋、鎖骨からその下に舌をゆっくりと這わせ移動してゆく。 「っ!?はぁっ!んっ・・・・・・いけません・・・・・・」 桐生の甘い吐息と熱い舌に誘われ、葵は甘い嬌声をあげ敏感に反応し身を捩る。 「君が好きだ・・・・・・この、素肌も・・・・・・甘い香りも・・・・・・すべて・・・・・・」 いつの間にか衣服が脱がされ、露わになった乳房を見て羞恥に駆られた葵は、両手で胸元を覆い隠した。 桐生は葵の両手をベッドに縫い留め、彼女の妖艶な裸体を視姦する。 「お願い・・・・・・見ないで・・・・・・」 葵は桐生の熱い視線から逃れようと、きつく目を瞑った。 「葵・・・・・・愛してる・・・・・・君だけを・・・・・・愛してるんだ・・・・・・」 ――それは、出会った時からずっと変わることのない、君への想い・・・・・・ 桐生は乳房に這わせた熱い舌で、硬く反り起つ頂を舐め弾き吸い付いた。 「はぁっ!あんっ・・・・・・!」 頭からつま先までピリリと電気が流れるような快感に、思わず自分の声ではないような甘い嬌声が上がり身体が大きく仰け反った。 こんなこと、いけないことだと頭では分かっている。 けれど、葵の心が・・・・・・身体が・・・・・・桐生を求めて止まない。 ――人妻の身でありながら、不貞を働く私をどうかお許しください・・・・・・ 「・・・・・・心のままに・・・・・・あなたを愛してもいいですか・・・・・・」 ――もう誰にも止められないあなたへのこの想い・・・・・・許されるものならば、今宵だけでも私だけのあなたでいてくれるだけでいい。ただそれだけで・・・・・ 葵は桐生の背にそっと手をまわしその身を委ねた。 僕の腕の中で、夢と現実の狭間をたゆたう君の陶酔した艶っぽい顔は、僕を煽っているなんてきっと君は知らないだろう。 押し寄せる快感の波に生理的な涙を流し身を捩り、幾度となく僕の名前を甘く囁く君の鈴の音。 僕はそれをずっと聞いていたくて、君が苦しげに喘ぎ啼いてもそれを止めてあげることができない。 ずっと欲しかった君が僕の腕の中で、恍惚と酔いしれ忘我の境地に()る。 ――もう手放せない・・・・・・どうしようもないほど君のことが好きなんだ・・・・・・ 君なしでは生きてはいけない・・・・・・ 「葵・・・・・・愛してる・・・・・・僕だけのものになれ」 ――身も心もあなた色に染められて・・・・・・あなたのことしか考えられなくなってしまった自分が怖い・・・・・・ 「許されるものならば・・・・・・あなただけの私で・・・・・・」 僕たちは確かめ合うように何度も何度も愛を囁き、壊れるくらい愛し合った。
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