売れ残りの魔法人形

1/1
前へ
/1ページ
次へ
ここに来て1ヶ月だ。木製の住宅に来て。周りの子は貰われたのに、私は貰われない。赤いフードの子は同じ赤いフードを着けた女の子に、2本足で立つネコは、ウサギの獣人の子に貰われていった。他にもたくさんの子が貰われていった。なのに私は貰われない。悲しい辛い。涙が出てくる。魔法人形だから感情がある。涙だって出てくる。知ってる子達はどんどんいなくなるし、奥の方に移動させられし、奥の方に来る人は少ないしかも、だいたい火の要らないフライパンとか、眠りをよくする枕の旧作とかを見に来る。私なんてをみない。チリン!とドアが開く音がする。男性だ。どうせこっちには来ないし、来たとしてもわたしを見ない。だから気にしない。 足音がこちらに近づいてくる。2分後には30メートルくらいまで。期待はしちゃいけない。わたしなんてもらうわけないんだから。5メートルまで近づいて来る。それも他のものを見ながらじゃない。なにも見ていない。思わず、期待してしまう。でも期待なんてしてはいけない。悲しくなるだけだから。今までもそうだった。たまに小さい子が「可愛い!買ってー!」と言ってお母さんらしき人が「ダメよー帰るわよー!」といって帰られされてしまう。だから期待なんてしちゃいけない。わたしは。男性は目の前に来ていた薄目の髭を生やしている。「見つけたこれ買っていこう。」と呟きながら、わたしを持ち上げた。思わず驚いて「間違ってないですか?」と尋ねてしまうほど。「あっている」そうたんたんと答え、歩く歩く、レジの方へ。赤髪の店員に、「これください」と言い会計を済ませる。800ゴールドほどを渡す。それで赤髪の店員が受け取り、会計は終わるかと思われた。「言い忘れてていたラッピングしてくれ」そう言われた赤髪の店員は、すぐさま白い袋と赤いリボンを持ってくる。「すみません人形をこちらに」「わかりました」そのまま店員にわたしを渡す。店員は白い袋に私をいれ、赤いリボンで袋を閉めた。 真っ暗になる。暗い、怖い。けど人形だから仕方ないこと。それに何処かに向かってることはわかる。すごく揺れてるから。酔いそうになるほどすごく揺れてるから。とにかく揺れてる。でもそれは体感2時間くらいで終わった。でも開かない。暗闇のまま。わたしは貰われたあとすぐに捨てられた?やっぱり期待するんじゃなかった。今度は出ることもできない。怖い。涙が溢れ出す。怖い怖い怖い。また急に揺れ出す。ネコだろうか?でも引っ掻く様子もない。それどころか「ハッピーバースデー ルナ!」と貰ってくれた男性の声がする。でもとても楽しそうな声。「お父さんからは新しい家族を!」「ルナ開けたい!あけたーい!開けていい?」可愛らしい子供っぽくて元気な声がする。「ああ もちろんだ。」「わーい!わーい!」ジャンプの音まで聞こえてくる。ガバッ!光が見える溢れ出す。目の前の女の子はサイドテールでピンクのワンピース、髪の色はお店の木目と同じいろ。「ルナだよ!名前は?」「名前ない」と答える。「ルナのこと嫌いなの?泣いてるよ。」「嫌いじゃない。」泣いてるそんなこと、あるわけない。辛くない、悲しくなんてない。「じゃあ嬉し泣きだね!」ルナら笑ってそう教える。涙はその間も止まらない。その数秒後に「名前ないんだよね?じゃあ黒髪と黒いワンピースだからクロでいい?」「わかりました」わたしは答えた。「ルナの家族!ルナの家族クロは家族!よろしくー!」「クロはお父さんの家族でもあるからなー」二人は揃って私を出迎える。 私を待っていたのはネコなんてじゃなかった。捨てられたんじゃなかった。 私を待っていたのは新しい家族だった。私にも家族ができました。ルナとそのお父さんです!
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加