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「もう……無理だよ。
絢音の心は、もう俺には向いてない。
ただし、お前を本気で好きなのかどうかも疑問だけどな」
兄の言葉に、胸の中がざわめく。
兄にはああ言ったものの、二人が抱き合ったことに、愛情という意味が存在していたと、俺は信じたかった。
例え、その気持ちを捩じ伏せて、手放さなければならないとしても……。
「その話には続きがあってな……
父は、お前に会社を継いで貰いたいらしいよ。
体が丈夫でない俺には、社長職は荷が重いから……とか言ってたらしいが、どうだか。
親父の目から見たら、経営者に向いてるかどうかなんてすぐわかるだろう。実際に俺が会社に入って仕事してるのを見て、使えないと思ったんじゃないか?」
「そんなこと……俺は何も」
「そうだよ。お前は何も知らなかったことだ。だけど、お前の知らない所で、いろんな話が進んでる。
そして、そのことによって、様々な思惑が生まれる」
兄がこれ以上、どんなことを言うのかと考えたが、もう既にキャパオーバー状態の俺は、ただ兄の顔を見つめることしかできなかった。
「俺は、ある時、酒に酔って、絢音にそれを話してしまった。
落ち込んでつい愚痴を吐いてしまったと、翌日になって後悔したよ。
でも、その頃からだった……絢音が変わったのは。
彼女の家は、父親が事業に失敗して生活が大変だったらしい。
だから、何不自由なく、他人より少し裕福な生活ができる環境にいたいんだ。
俺のことを好きだったのは事実だとしても、次期社長としての後ろ盾があってのことだったんだよ。
それを無くしそうな俺には、もう魅力を感じない。
だからお前に鞍替えした。
そういうところのある女だ。
お前の母親と同じだ。自分の将来を手に入れる為に、身体を武器に使ってな。
本当は薄々わかってる。絢音から迫ったんだろ? お前は、そんなことをする奴じゃない」
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