2.初夏の嵐

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「もう……無理だよ。 絢音の心は、もう俺には向いてない。 ただし、お前を本気で好きなのかどうかも疑問だけどな」 兄の言葉に、胸の中がざわめく。 兄にはああ言ったものの、二人が抱き合ったことに、愛情という意味が存在していたと、俺は信じたかった。 例え、その気持ちを捩じ伏せて、手放さなければならないとしても……。 「その話には続きがあってな…… 父は、お前に会社を継いで貰いたいらしいよ。 体が丈夫でない俺には、社長職は荷が重いから……とか言ってたらしいが、どうだか。 親父の目から見たら、経営者に向いてるかどうかなんてすぐわかるだろう。実際に俺が会社に入って仕事してるのを見て、使えないと思ったんじゃないか?」 「そんなこと……俺は何も」 「そうだよ。お前は何も知らなかったことだ。だけど、お前の知らない所で、いろんな話が進んでる。 そして、そのことによって、様々な思惑が生まれる」 兄がこれ以上、どんなことを言うのかと考えたが、もう既にキャパオーバー状態の俺は、ただ兄の顔を見つめることしかできなかった。 「俺は、ある時、酒に酔って、絢音にそれを話してしまった。 落ち込んでつい愚痴を吐いてしまったと、翌日になって後悔したよ。 でも、その頃からだった……絢音が変わったのは。 彼女の家は、父親が事業に失敗して生活が大変だったらしい。 だから、何不自由なく、他人より少し裕福な生活ができる環境にいたいんだ。 俺のことを好きだったのは事実だとしても、次期社長としての後ろ盾があってのことだったんだよ。 それを無くしそうな俺には、もう魅力を感じない。 だからお前に鞍替えした。 そういうところのある女だ。 お前の母親と同じだ。自分の将来を手に入れる為に、身体を武器に使ってな。 本当は薄々わかってる。絢音から迫ったんだろ? お前は、そんなことをする奴じゃない」
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