一ノ巻

3/17
前へ
/108ページ
次へ
「此処から先は、叶様お一人で行かなければなりません」 お元気で、と思ってもいない言葉を続けてから駕籠の中から僕を出す。 白無垢に身を包んだ僕はガサッと地面に足を着き、視線の先の階段を見つめた。ジッと目を凝らして見ても、階段の先は肉眼では分からない。ゴクッと生唾を呑んだ僕は、くるりと送ってくれた彼等の方を振り返り、頭を下げた。同じ様に頭を下げた彼等は役目を終えたかの様にその場からまた引き返して行った。 (………行くか) 取り残された僕はいよいよ階段に足を踏み入れた。 鳥居を潜り、一段目に足を置いた瞬間、花の香りが鼻を掠める。ハッと顔を上げると、いつの間にか桜の木々が平行線に真っ直ぐ並ぶ様に立っている。ちらちらと上から舞い落ちる桜の花弁を目で追いかけながら、つられる様に上がっていく。もう戻ろうにも戻れなかった。背後の道は進めば進む程消えていくのだから。 (そういえば、どうして白無垢なんだろう。お嫁に行く訳でも無いのに)
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1021人が本棚に入れています
本棚に追加