1054人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな事を思いながら、ようやく最後の段迄上りきった。振り返ると、やはり階段は無くなっていて、辺りは生い茂った草と周りの桜の木々達だけになっていた。もう後には戻れないと覚悟を決め、再び前を向いて目を見開く。
たった今迄目の前に無かった屋敷が立っていたのだ。いつから建ってあるのか分からないくらい古びているが、神秘的な雰囲気の漂う空間だった。静かな空間に取り残された僕は屋敷の前迄惹きつけられる様に足を向けた。
「此処が龍神様のお屋敷…」
恐らく此処が「バケモノ」と呼ばれる龍神の住む屋敷なのだろう。
ひとけのない玄関の前に立ち尽くし、恐る恐る扉を叩く。反応は無い。身構えていたので思わず拍子抜けしてしまう。
(もしかして留守とか……?いや、神が自分の居場所を易々と留守にするなんて事あり得るのかな)
もう一度…と思い、軽く手を上げた次の瞬間──何かに制される様に手の動きがピタッと止まった。正確に言うと動きを封じられた。
「えっ」と固まったその時、ヒュッと首根っこを掴まれた様な感覚に陥る。突然息が上手く出来ない冷気に襲われる。自分の背後に得体の知れない何かが居るのが分かった。
「──一体何処の者だ」
最初のコメントを投稿しよう!