一ノ巻

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心地良い低音が耳に響く。 視線だけ動かし、恐る恐る声のする方を見る。其処に立っていたのは、濃い青の着物を見に纏い、真っ直ぐな白の長髪を靡かせた大きな男だった。背の高い男は僕を見下ろすと、冷たい眼差しで見つめたまま続ける。 「──お前、今回の『供物』か」 金色の瞳を見て全てを察したのだろう。 ピクッと眉を動かしたかと思いきや「そういえば今日がその日だったな...」と僕の頬にそっと触れ、目を大きく見開かせる。視界いっぱいに目の前の男の整った顔が映る。生きてきて今迄こんなに綺麗な人は見た事が無い。 (あ…人間じゃないんだった) 彼が神である事を今更ながら思い出す。 スッと離れた彼に「貴方が龍神様ですか」と聞いてみる。見下ろし続ける彼は訝しげな表情で「見れば分かるだろう」と告げる。綺麗な顔をした得体の知れない者の存在に内心怖気付きながら「あの...」と胸元で繋いだ手に力を込める。次の瞬間バッと顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐ見た。ほんの僅かだったが、龍神様がたじろいだ気がした。
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