そのままの私と

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そのままの私と

 次の日は日雇のお仕事は見つからず、日中は歩き回ったまま何も食べずに終わった。  一晩経ってもあざは薄れず、誤魔化すことも出来ない。  真昼、化粧もせず着飾ることもいつものようにはしない私に、面も着けてはいないのに誰も気付かないのか見向きもしない。  みんな、用があるのは『サキュバスのナンネ』だけ。  今まで魔女のダリア以外にこの姿では、誰にも気付かれたことがない。  夕刻になり、仕方無く隠れ家に戻ろうとすると、 「ナンネ…!」 と声を掛けられた。  それは昨日の逢瀬で心の支えにした、優しい笑顔のティト様だった。 「…!!」 「ナンネ、こんばんは」  …やっぱり、聞き間違いじゃなかった…  何も言えなくなり下を向く私に、ティト様はいつものように優しく微笑みかける。 「今日、他のお客は君を予約したりいない?また今日も、俺の相手をしてくれる?」 「え…?」  私は思わず固まってしまった。  着飾らない『ただ』のナンネに気付き、ティト様は変わらず逢瀬の声を掛けてくれた。 「ナンネは飾っていなくてもやっぱり可愛いんだね。また軽食に付き合ってくれたら、その分少し払うよ」  ティト様は私のそばに寄り、下を向いた私の顔を少し覗き込みながらそう言った。 「…人違いでは…?私は…」  あざは消えない、お腹も空いている、お仕事は見つからなかった惨めな私…  思わず私の口を出た言葉は震え、ティト様に顔も合わせられない。  誰にも気付かれないと思っていたのに…  着飾らない目立たない、これが『サキュバスのナンネ』だなんて… 「俺がナンネを間違うはずないよ。俺はしっかりとお化粧をして着飾ったナンネと一緒がいいんじゃないんだ。ナンネといたいんだよ。気にしなくてもいいんだ。それとも俺といるのは嫌…?」  ティト様の声は懸命に聞こえる。  着飾りもしないただのナンネでも良いなんて、今まで誰が言ってくれただろう… 「いいえ…いいえ…!」  もうどうしたらいいのか分からない。私は下を向いたままただ立ち尽くした。 「…そっか、その姿で人に見つかりたくなかったんだね…ごめん…」  彼は優しく小さな声でそう言うと、私をそっと抱き締めた。 「…これなら恋人同士に見えるだろうから、許してくれる…?俺、ナンネと会いたかったんだ…お願い、ナンネ…」  優しいティト様の言葉に、私は思わず頷いてしまった。 「良かった…!ナンネ、また少し払うよ。先に食事をしよう?」
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