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優しい友ダリア
蜘蛛の客は一晩中私を嬲り、今回はお金は払ってくれた。
私を縛ったままで。
ダリアのお守りのおかげで、今まで命の危険にまで陥ったことはない。それでも…
「う…うぅぅ…」
力無く、糸に絡まれたままベッドに横たわり涙を流す私。
あの穏やかだったティト様との逢瀬を、早く忘れなければ…
きっと前のように、これが普通だと思えるようになる…これが私のあるべき姿なのだから…
「あんた、無理をしてるでしょう…」
夕刻、店に来た私にダリアが言う。
「…いろんなお客様を、相手にしているから…」
笑顔のつもりが、力の無い笑いになってしまった。
「それだけじゃないわ。見れば分かるのよ」
ダリアはじっと私を見つめる。
「…ナンネ、何故、常連のそのお客を断ったりしたの…?」
「え…」
いきなりの問い掛けに私は戸惑った。
きっと私が前に零した、ティト様と別れて別の地域で始めたその理由のことだろう。
「それは…」
「ただ単に、何度も粗相をしてしまったから、とか、そのお客に酷いことをされ続けたから、とかじゃないわね…?」
ダリアは辛そうにし、下を向いたままの私の手を取った。
「あんたのオーラが薄れかけてるのよナンネ…!!あんなに必死に生きていたあんたが、一体どうしたの!常連客と別れたとか言った頃からよ!あの前はあんなに光るオーラまであんたには見えたのに…!!そのお客、あんたの多少の支えになっていたんじゃないの!?」
ダリアはうつむく。
「馬鹿…ナンネの馬鹿…!!今のあんたはまるで、人形みたい…!…なんであんたには分からないの…!!」
ダリアは悲しげに顔を歪ませたまま、何かが入ったバスケットを私に押し付けた。
「痛みの薬と、あんたでも食べられる試作の薬草ビスケットよ!!ここで休めって言っても聞かないんだから、もう帰って寝なさい!!」
…ダリアは何故あんなにティト様とのことを気にしたのだろう…私の方は早く忘れなければならないと必死なのに…
とぼとぼと隠れ家に戻った私はいつものパンを食べ、逢瀬に出掛ける支度を全て済ませると、ダリアに貰った薬を飲んだ。
しかしダリアは私を早く休ませようと必死だったのだろう、今日の薬は眠くなるものと私に言い忘れてしまったらしい。
疲れも溜まっていたのか、私は座っていた古いソファーからも立ち上がれないまま眠ってしまった。
あんなに疲れていたにも関わらず、私はそのうち夢を見始める。
光の満ちる夢の中。
私の前に人型の影が突然現れ、どこかで見た気がするそのシルエットを見るうちに、悪魔のような姿に変わっていった。
悪魔は相手の心の隙間に入り込み、ときに悪さを働くという。
細く背の高い身体に頭に角を生やし、骨ばった羽と尾がある。この国でも滅多に見ることがない、話に聞いた正統な『悪魔族』…
「!!」
驚く私の前でその悪魔は私に告げる。
「『サキュバス ノ ナンネ』…望ミ通リ忘レサセテヤル…」
「え…!?」
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