優しい友ダリア

1/1
前へ
/35ページ
次へ

優しい友ダリア

 蜘蛛の客は一晩中私を嬲り、今回はお金は払ってくれた。  私を縛ったままで。  ダリアのお守りのおかげで、今まで命の危険にまで陥ったことはない。それでも… 「う…うぅぅ…」  力無く、糸に絡まれたままベッドに横たわり涙を流す私。  あの穏やかだったティト様との逢瀬を、早く忘れなければ…  きっと前のように、これが普通だと思えるようになる…これが私のあるべき姿なのだから… 「あんた、無理をしてるでしょう…」  夕刻、店に来た私にダリアが言う。 「…いろんなお客様を、相手にしているから…」  笑顔のつもりが、力の無い笑いになってしまった。 「それだけじゃないわ。見れば分かるのよ」  ダリアはじっと私を見つめる。 「…ナンネ、何故、常連のそのお客を断ったりしたの…?」 「え…」  いきなりの問い掛けに私は戸惑った。  きっと私が前に零した、ティト様と別れて別の地域で始めたその理由のことだろう。 「それは…」 「ただ単に、何度も粗相をしてしまったから、とか、そのお客に酷いことをされ続けたから、とかじゃないわね…?」  ダリアは辛そうにし、下を向いたままの私の手を取った。 「あんたのオーラが薄れかけてるのよナンネ…!!あんなに必死に生きていたあんたが、一体どうしたの!常連客と別れたとか言った頃からよ!あの前はあんなに光るオーラまであんたには見えたのに…!!そのお客、あんたの多少の支えになっていたんじゃないの!?」  ダリアはうつむく。 「馬鹿…ナンネの馬鹿…!!今のあんたはまるで、人形みたい…!…なんであんたには分からないの…!!」  ダリアは悲しげに顔を歪ませたまま、何かが入ったバスケットを私に押し付けた。 「痛みの薬と、あんたでも食べられる試作の薬草ビスケットよ!!ここで休めって言っても聞かないんだから、もう帰って寝なさい!!」  …ダリアは何故あんなにティト様とのことを気にしたのだろう…私の方は早く忘れなければならないと必死なのに…  とぼとぼと隠れ家に戻った私はいつものパンを食べ、逢瀬に出掛ける支度を全て済ませると、ダリアに貰った薬を飲んだ。  しかしダリアは私を早く休ませようと必死だったのだろう、今日の薬は眠くなるものと私に言い忘れてしまったらしい。  疲れも溜まっていたのか、私は座っていた古いソファーからも立ち上がれないまま眠ってしまった。  あんなに疲れていたにも関わらず、私はそのうち夢を見始める。  光の満ちる夢の中。  私の前に人型の影が突然現れ、どこかで見た気がするそのシルエットを見るうちに、悪魔のような姿に変わっていった。  悪魔は相手の心の隙間に入り込み、ときに悪さを働くという。  細く背の高い身体に頭に角を生やし、骨ばった羽と尾がある。この国でも滅多に見ることがない、話に聞いた正統な『悪魔族』… 「!!」  驚く私の前でその悪魔は私に告げる。 「『サキュバス ノ ナンネ』…望ミ通リ忘レサセテヤル…」 「え…!?」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加