私には見えない悪魔

1/1
前へ
/35ページ
次へ

私には見えない悪魔

 ダリアの店に行こうと決心をした私だったけれど、いつもの路地裏に入り込んですぐのことだった。 「っ…!!」  誰かに口を塞がれ、近くの廃墟に引きずり込まれた。 「…誰も来ねえな?くくっ…いい娘だ…!」 「あたしにも触らせてよ!…っああ、このコの顔の艶…!ゾクゾクする…!!」  人間の男性と猫の獣人の女性が私の口を塞いだまま、上気した顔で私の服の上から身体や顔を撫で回す。 「!!」 「この娘はなかなかいい声をしてるんだ。お前にも聞かせてやるよ…!」 「早く早く…!」  塞いでいた私の口を解放する。 「っ、はあっ…や、やめてください…!!離して…!」  抵抗し、叫ぶ私。  けれどもふたりで押さえつけられた私の身体はびくともしない。ともにニヤついたまま私の気持ちなどお構いなし。 「本当いい声…!早く、感じるこのコを見たいわ!!」  二人に服を乱暴にはだけられ身体中を撫でられ、舌を這わされる。 「っやああ!!」  ザリザリと荒く、熱を帯びた彼女の舌に、私は堪らず声を上げる。 「この耳にビンビン響く声…!もっと聞かせてよ…!!たまんない…」 「くくっ、俺はこっちを。誰も来ないんだ、しっかり鳴けよ」 私は胸の先をつまみあげられ、ぐりぐりといじめられ続ける。 「っあぁ、嫌ああ!!」  見知らぬ二人に無理やり身体を嬲られ、私は傷をえぐられたように胸が酷く痛んだ。 「もっともっと!」 「…押さえてやるからお前、舐めろ。楽しみにしてたろ?」  男性は無理やり座らせた私を後ろから羽交い締めにしたまま、女性に促す。 「楽しみ…!もう濡れてるじゃない…うふふ…」  女性がよつん這いのまま私の足を押さえ中心部に舌を這わせようとした、その時だった。 「!?うわああ!!」 「っ、何…!?きゃあああ!」  叫んだ男性の視線に女性は振り返り、彼女も叫び声を上げる。  薄い霧。  前に森で私を苦しみから救ってくれたものに良く似ている。  しかし、 「あ、悪魔だ…!」 「何でっ、他国にしかいないはずの悪魔族が、何でここにいるのよ…!?」  霧を見て悪魔だというふたり。それでも私には霧にしか見えない。 『…娘に触れるな…!』  どこからともなく、怒りを含んだ低く響く声が聞こえた。 「きゃあああ!!」 「っ、逃げるぞ…!!」  二人は一目散に逃げていった。  私は力が抜けて逃げ出すこともできずにいる。  涙が止まらず拭うこともできないまま、霧の行方を濡れたままの目で追うしかなかった。 「っ…!!」  いつかのときと同じように、霧が私を取り巻く。  穏やかで優しくて、悪魔の時や以前に霧に包まれた時のような心地いい気がした。 「…。」  私は何故か抵抗することもなく霧に身を任せ、早鐘のように鳴っていた私の胸も次第に穏やかに戻っていった。 「…この霧は、私を助けてくれたの…?あの声は悪魔なの…?どうして…」  二人には悪魔の姿に見えたという霧は、私の問いに応えようとはしない。  しかし気持ちが落ち着き、私の涙も乾いていった。 「助けてくれて、ありがとう…」  私は霧にお礼を言う。 「…行くわ、ダリアのところへ…。行って、お願いするの…」  私は誰に言うともなくそう言うと何とか立ち上がり、まだ震える手で服を直すと消えるほど薄くなった霧の中をそっとあとにした。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加