自分が見えない愛想笑い

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自分が見えない愛想笑い

 いまや常連になった私だけれど、ダリアは出会った当初から良く気にかけてくれている。  それでも私に浮かぶのは愛想笑い。 「…そうだ、今日も見てあげるよ!いつも通りこっちの料金は要らないから!よし…」  魔女である彼女は、私の答えを待たずに水晶を覗き込む。  いつもダリアは私が店に来ると、私が気をつけるべき時を占ってくれる。 「…ナンネに近々、何か出会いがあるようね。『縁』みたいなものも出来るみたい。まだ詳しく分からないけど、他に何か危険もあるかもしれない…」  そう言ってから、何かに気づいたように首を傾げる彼女。 「…ありがとうございます、しばらく気をつけてみます」  私はそう当たり障りの無いよう彼女に返したけれど、内心は何が起きるのだろうかと不安になった。 「用心に越したことは無いわ。私もちょくちょく占ってみるから。…あと、自分に素直になってみることよ」  …何か出会いがあることと関係があるのだろうか?  首を傾げた私を見てダリアは笑った。 「そんな顔も出来るんじゃない。『サキュバスのナンネ』を、少しだけ忘れてみたほうがいい時もあるんだろうね。辞める気が起きたらいつでもまたおいで。みっちり魔女修行をさせながら、この店でこき使ってあげる。人間の寿命が来るまでね!」  私は今、どんな顔をしたのだろう…? 「ありがとうございます、考えてみますね」  ダリアは私のその答えに呆れたように笑ってため息を付いた。  …今さら戻れはしない…  あの何も知らなかった頃の、まっさらな私には…  私はまた愛想笑いを浮かべて薬を受け取り、店を出た。 「…全く…。これだけ見ていれば、あんたが心の底では苦しんでいるのくらい分かるんだけどね…ナンネは聞かないんだから…」  私の頻繁な付き合いはこのダリアだけ。それ以外はお客様で、一期一会の逢瀬のみ。  一度の逢瀬があったお客様でも、次に会ったときには私は全く別の雰囲気で出迎えることのほうが多い。  私に本当の気持ちなんてあるのだろうか?  本当の私の姿なんてものすら、あるかどうかも分からないのに… 「『いけないコね…お姉さんがお仕置きしてあげる…』」  求められるまま、相手の望むよう自分の雰囲気を変える。 「お姉さん、許して…僕は悪くないじゃないか…そんなに、いじめないで…?」 「『お姉さんを│(たぶら)かすなんて、いけないコのすることだわ…もう感じてきているの…?』」  相手に合わせて、自分が消えていく… 「『さあ…覚悟するのよ…』」
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