記憶を取り巻く霧

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記憶を取り巻く霧

「こんばんは、ダリア…」  私は夕刻から開くダリアの店に辿り着く。  私を出迎えようとこちらを見た瞬間、ダリアは鋭い目つきで身構えた。 「ナンネ!!…何なのよ、あんたから発してるその魔力は!!何があったの!?」  私には何のことか分からない。ダリアは私を庇うように私のすぐ前に立った。 「!?」  ダリアは警戒するように赤い瞳を光らせる。  魔力と言う言葉を聞き、私は混乱したままぼんやりとした昨晩の記憶を手繰り寄せた。 「…よく覚えていないけど…昨晩、夢の中に悪魔が出てきたわ…。あとはさっき、襲われかけた私を、前みたいな不思議な霧が…。私、今日はその相談も…」  ダリアは私の言葉に何か気付いたらしい。 「夢の中に、悪魔…!?まさか…」  ダリアは急いで周りを見渡した。そして焦るように私に尋ねる。 「その夢を見たあと何か変わったことは!?」 「…前のことが変に、思い出せないの…」  それを聞き、ダリアは戸惑うように私に問いかけた。 「ねえナンネ…常連客のことは…?別れたの、とても悔やんでいたでしょう??…一昨日のことは、覚えてる?」 「え…」  …常連客…そんな相手、私にいた…?  なぜ今、そんなことを聞くのだろう?  夢の悪魔や私から感じる魔力と、何か関係があるのだろうか?  ダリアは尋ねられて困惑する私の様子を見て、何かを悟ったらしい。  しばらく考えたあと、ダリアは何かを思い出した様子でうつむき、私に言う。 「…ナンネは弱ったところを付け込まれたのよ…!!ナンネ…気になったお客と上手くいかなくて辛かったんだとしても、大切なきっかけをくれた初めての思い出だったじゃない…!どうして…」 「…何の…こと…??」  悲しげなダリアに対し、いくら考えても思い出せない話で私は戸惑うばかり。  ダリアは瞳を光らせたまま顔を上げ、私ではない方を見渡しながら言った。 「…聞こえているか分からないけど、ナンネに夢の中で何かしたのはあんたね…!!」  ダリアの声に呼応するように、 表情の感じられない何者かの声がダリアの店に響き渡る。 『…彼女は苦しんでいる。それならそれに関する全てを忘れさせるのがいい…』  ダリアは声が聞こえた瞬間、ハッとしたように顔色を変えた。 「…強い魔力…!!…姿は見えないけど…やっと現れたわね…」  私には声が聞こえただけで何も感じない。  先ほど聞こえた悪魔らしき声にも似ている気がしたけれど、私はただただ目の前にいるダリアを見守るしかなかった。 「今すぐナンネに掛けた記憶の霧を解いて!!あんたが何故そんな事をしたか知らないけど、あれは他人に簡単に忘れさせられて良いことじゃないわ!!ナンネは救われていたのよ、その常連客のおかげで…!!」  ダリアは混乱する私の代わりと言わんばかりに、必死な表情で声の主に向かって訴える。 『…彼女を苦しめたのはその客。これは苦しめた記憶を一時的に忘れさせているだけだが、じきに彼女の記憶から本当に無くなる。…そうなれば、俺の役目も終わる…』  常連…?忘れる…?  私、やっぱり何か大切なことを… 『…忘れたほうが…いい…』  先ほどと違い、悲しげに呟いたその声を、私は何だか聞いたことがある気がした。
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