その面影に感じる温もり

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その面影に感じる温もり

 ダリアは構わず声の主に続ける。 「ナンネは気付かなかったけどね、あれは初恋だったのよ!!あの時のナンネはとても穏やかだった!あれはナンネを癒すひとときだったに違いないの!!それをすぐ、無理に忘れさせるなんて…!!」 『…初恋…』  話を聞いていた私の頭が、キリキリと痛み始めた。  頭の中の霧がうっすらと晴れ始め、記憶が私の中に流れてくる。 「…サキュバス、は…人を…愛さない…だから、私は…」  痛む頭を押さえる私から、無意識に口を突いて出た言葉。  …愛なんて、縁がないと思っていたから…  自分の気持ちを見失った私に相応しいのは…“あの方”では…  目の前に黒い影が現れ、私はゆっくりと顔を上げた。 『誰が、サキュバスは人を愛せないものだと言ったの…?』  そこから聞こえる優しい声…  どこかで聞いた、私を心配するような穏やかな… 『するよ…サキュバスだって、インキュバスだって、他人に恋をして、愛し合うことは出来る…』  黒い影は徐々に“誰か”の姿を象っていく。 「俺が、ナンネに恋したように…」  その影は次第に実体に変わり、私とダリアの前に姿を現す。  すると、私のぼんやりとしていた何日もの『彼』との逢瀬の記憶、そして夢の中の悪魔とのやり取りや自分の気持ちを、全て思い出した。 「…ごめんね、ナンネ…」  少し決まりが悪そうに、それでも穏やかに笑うその姿。  私を優しく抱き寄せ、私をいつも想い心配をしてくれた、忘れられよう無かったはずの… 「…ティト…様…」  呆然とする私に、ダリアは彼の正体を見定めて言った。 「…あんたがナンネの…?あんた、魔族…それも、インキュバスね…?」  …人間だと思っていたティト様が魔族…  それも、インキュバス…男性姿の、サキュバスの対となる… 「ごめんねナンネ、君に黙っていて…」  ティト様は、驚き何も言えなくなった私を悲しげに見つめてそう言った。 「やっぱり、ナンネは魔力を感じないから気付かなかったのね…」  ダリアの言葉に、穏やかに、それでもしっかりとダリアを見つめてからティト様は頷く。 「…ダリアに会うのはナンネを森で助けて以来になるね、実体では無かったけど…。この国では魔族を良く思わない人も多いから、君にナンネに会うことを反対されると思って…改めて、はじめまして、魔女のダリア」  ダリアは少し警戒を解いた様子で、ティト様に尋ねた。 「…あんた、自分からナンネの記憶を消したの…?…前に、襲われたナンネを包んだ霧も、やっぱり…」 「そう、ナンネが襲われて苦しんでいたから。…俺のせいでナンネを苦しめてしまった…ナンネが失敗をしたんじゃないんだ、俺の能力のせいなんだよ…。俺の能力は、自分の気になった相手を感じさせてしまう…あんなにナンネが苦しむなんて…。噂のナンネをひと目で気に入って、ナンネのことが知りたくなった。でも俺は恋をしたこともない、まして人間になんて…。だからなおさらやり過ぎた…俺がいるとナンネが苦しむのなら、魔力を使って忘れさせてあげるのがいいと思った。それなのに、さっきも混乱させてしまって…」  ティト様はうなだれた。
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