私の夢へ…

1/1
前へ
/35ページ
次へ

私の夢へ…

 小さなベッドが二つ、ダリアの店の奥の部屋に置かれている。  ここは来た病人を一時的に休ませるための部屋だそう。今は当然誰もいない。 「さ、ナンネ、ベッドに寝て…?」  ともに部屋に入ってきたティト様が私を促す。 「え…いえ、でも…」  ティト様は困惑する私に笑いかける。 「俺はインキュバスだよ?ナンネがサキュバスのときは俺はお客さんだったけど、今はそうじゃないでしょ?それにもう夜だから、俺の魔力は最大限発揮出来るよ。ダリアの言っていたとおり、ナンネは身体を休ませて?」  少しの間ためらい、ようやくベッドに腰掛けた私にティト様は優しく語り掛ける。 「インキュバスは相手の夢へ現れるんだ。…大丈夫、ナンネから離れたりしないよ。君が辛くなければ、一緒に夢の中で過ごしたいだけ…」 「ティト様…」  これだけのことで私の心は温かくなる。  私が逢瀬のさなかに夢中で言った言葉を、ティト様はしっかりと覚えていてくれた… 「ね、良い…?ナンネ…」  ティト様はいつも私を気にかけてくれる、優しい方… 「…私のもとへ、来てくださいティト様…。貴方にそばにいてほしいです…」  私はゆっくりと身体をベッドに横たえる。  私が共の眠りに誘うためでもなく、彼の欲望のためでもなく、彼の純粋な願いを満たし、私が彼と過ごしたいと思うから…  いつの間にか光の満ちた空間に、私の体は横たえたまま浮いている。  ティト様が現れ、寝そべる私をそっと抱き締めてくれた。 「ナンネ…君は本当に頑張り屋だね…もう苦しんでほしくない…君が望んでくれるなら、俺はずっと君のそばにいたいんだ」  私が待ち望んでいた優しいティト様の声や言葉、温かいティト様の抱擁に、私の胸は高鳴った。 「私にはもったいないくらいです…!本当に優しい方…」 「俺がそうしたいんだ、もったいなくないよ。ナンネのそばが良い…ね、もっとそばに寄っても良い…?」 「もっと、そばに…?」  私を抱き締めてくれているティト様。  これ以上そばに寄ることなんて出来るのだろうか?  …もしかして…  私は目をそっと閉じて、その時を待つ。 「ナンネ…」  私の考えが当たったのか、嬉しそうに声を少し弾ませたティト様は私を抱き締め、何度も優しく私に口付けてくれた。  私は心地が良くなり、身体が蕩けていきそうな気すらした。 「ナンネが笑ってくれて嬉しい…!疲れていない?ナンネが疲れてないならずっと抱き締めていたいよ」 私はその言葉に強く頷く。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加