『失態』

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『失態』

 私は一人、顔を青くした。  媚薬でも使われたかように、なぜか私の身体は火照ったまま、熱に浮かされたようになっている。  こんなはずじゃなかった…  いつもは相手を感じることなんてないのに…  それでも彼から私の顔は見えていない。  落ち着き払い、力尽きていた身体を何とか起こして彼の上で身体を揺すり続けた。 「んんっ…!!」 「っあ…あぁぁ…!!」  しばらく彼を導くと、彼は私と肌を合わせ果てる。  その後も、何度も何度も私は繰り返し彼を攻めたけれど、私の身体の火照りは治まることが無かった。  朝、平静を装っているけれど、私は全く落ち着けなかった。 「…。」  顔は笑顔、しかし何も言えずに黙りこんでいる私。  彼には全くそれを気にしている様子はない。 「ナンネ、とても可愛いかったよ…!あんなに一生懸命に君は…!」  本当に嬉しそうに笑うお客様。 「…恐れ入ります…」  私の顔色は悪くなっていないだろうか?  いつものように笑えているだろうか?  ずいぶん無かったのに、お客様よりも先に果ててしまうなんて…  それも、何度も…… 「気に入ったよナンネ!また君と会いたい…!」  …この言葉は社交辞令に決まっている。  彼の望む通りには出来なかったのを、きっと彼だって気付いているはずだから… 「ありがとうございます…!またきっとお願いいたします…!」  顔には出さない。これも、またいつか私のお客様になってもらうため。 ところが彼は突然、 「俺の名前はティトだよ。よろしく、ナンネ」  そう名乗り、自然に私に笑い掛けた。 「え…」  一夜の逢瀬の、名乗らずとも済む相手に名前を教えるなんて… 「…はい、よろしくお願いいたします、ティト様」  私も気を落ち着け、ニコリと笑ってみせた。  この方だって、今のはきっとほんの出来心。  『サキュバス』の望むものは何なのかという、ただの興味本位かもしれない… 「もっと君を知りたいよ、ナンネ…また次も君を抱かせて?もちろんお金は払うから」 「はい、ぜひ…!」  私は笑顔を作りながら、いつもこのお客様みたいに優しい方だったらいいのにと思った。
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