銀世界

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銀世界

 朝、ドアを開けると一面の銀世界が男を待ち受けていた。吸った空気の冷たさに寝起きの男の眠気は一発で吹き飛んていき、吐く息は白く広がってすぐに消えていった。男自身、雪を見るのは新婚旅行で、オーロラを見にいった時、以来で少しソワソワしていたが、その寒さで、そんなソワソワも吹っ飛んで行ったのだった。  男は昨日とは一変した風景に目をパチパチさせながら辺りを見渡す。いつもとは違って雪で反射した光が眩しくて、男は思わず顔を(しか)めた。 「わーい!雪だ!雪だー!」  男が目を細めながら声のした方を見ると、近所の子供達が初めて見る雪に大はしゃぎしている。 「ワン!ワン!ワン!」  とたりの家の犬も初めて見る雪に興奮している様であった。 「ニャー…」  男が振り返ると家の中で愛猫(あいびょう)が丸くなっていた。  空からは尚、雪が降り続いているた。 「ハッ、ハックッシッ!」  男もそんないつもとは違う風景を物珍しく眺めていたのだが、冷気が背筋を通り抜けて身体(からだ)を大きく振るわせた。男はたまらず家の中に戻っていったのだった。  男が玄関で肩に積もった雪を払い落としていると、妻が少しウキウキした様子の妻がやって来た。 「どうでした、外は?」  妻自身も久し振りに見る雪に興奮気味であった。 「いやー、新鮮と言えば聞こえは良いが、寒くてたまらんよ。子供達は大喜びで走り回っていたが、こんなに寒くては皆んな風邪をひいてしまうんじゃないか?」 「確かにそうね。家の中も結構冷えて来ているわね」 「それより母さん、何か温かい飲み物をくれないか?」 「そうね…。ホットコーヒーで良いかしら?」 「ああ。頼むよ」   「どうぞ」 「ありがとう」 しばらくするとホットコーヒーが出来上がって来た。普段は飲まないホットコーヒーの香りもまた、二人には新鮮であった。そして、二人は熱々のホットコーヒーを慎重に飲み始めた。 “フー、フー…。ズズズッ…” 「あー、温まるな」 「ええ。味も香りも最高ね。たまには良いものね」  二人は自然と笑顔になっていた。 「へっ、へっくし!あー、しかし、寒いな…。エアコンの暖房というヤツを入れてみるか?」 「そうね。ここまで冷えると辛いわ。ちょっとやってみるわ」  そう言うと男の妻はエアコンのリモコンを取りに行った。 “ゴガァー…”  エアコンは温風を吹き出し始めた。 「温かいわ。でも、こんな事が一体いつまで続くのかしら」 「ストライキがまだ終わらないと言う事だろう。まさか我が家で、この赤道直下の村にも雪が降り積もるなんて夢にも思わなかったからね」  そう言うと男がテレビの電源を入れると丁度この雪関連のニュースが流れていた。 「…世界中で大雪が続いていますが、今朝はとうとう赤道直下の国々でも人類の歴史上、初めて積雪が観測されました。朝、七時の時点で、約二十センチの積雪が観測されていますが、雪は今も降り続いている為、積雪は更に増えてゆくと思われます。  先日から世界政府は全力でストライキ中の太陽と全力で交渉を続けていますが、今まで好きな様に太陽光を利用し、時には温暖化の原因をなすり付けたりもされた太陽の怒りはそう簡単には収まりそうもない様です。  では、次のニュースです。総裁選に立候補する四人が…」終
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