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今日から五日間は年に一度の花祭りが開催される。国内外から花が集められ、町中が甘い香りに包み込まれる。
珍しい花や、生産者たちが研究に研究を重ねた新種の花の売買も盛んに行われる。花は人々の生活を彩るだけでなく、食用や薬、美容・健康品の開発にも使われており、朱雀の多くの民にとって貴重な生活の糧であった。
花祭りはそんな花への感謝と、今後の繁栄を願って古くから実施されている由緒ある祭りなのだ。
「雲雀さま! 見てください今年の花を!」
「雲雀様、今年のリラの花の蜜です。どうぞご賞味くださいな」
「ああ、雲雀様、先般教えてくださった溶液はとても効果がありましたぞ」
「雲雀さま~! 今年の花コンは美人揃いですよ~!」
祭りのメイン会場へ入ると、三歩歩くたびに声をかけられる。
一向に先へと進めないが、雲雀は嫌な顔一つせず、一人一人の話に耳を傾け談笑していた。
(僕は恵まれている)
(豊かな国。すばらしい民のみんな)
(いずれは僕が、四天王となりこの日常を守って行くんだ)
雲雀が父のあとを継ぎ四天王・朱雀となるのはそう遠い将来ではない。
四天王継承の時期は各国様々であるが、おおむね16、17歳頃になると次期四天王候補者は試練となる任務を受け、その後は各四天王が時期を見極めて継承する。
雲雀も二年前に試練の任務を終え、それ以降公務に顔を出すことも増えた。心身ともに、四天王になる準備はできている。
しかし雲雀が日頃から国民と接するのは、決して四天王の後継者としての義務からではなかった。彼は純粋にこの国を愛し、人々と関わることを喜びとしていた。
そんな雲雀が彼女に出会ったのは、この年の花祭りの初日だった。
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