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「シエル……君に会えたことを……全てのものに感謝する。僕は恵まれていて、すべてを持っていると思っていた。でもそうじゃない」
「……?」
「僕は、自分にこんな感情があると思わなかった。こんなにも誰かを好きになったのは初めてなんだ。……君を、好きなんだ」
『好き』
雲雀から聞くその言葉はとても甘美な響きだった。そしてその言葉が友人としてではないことくらい、シエルにもすぐに分かった。
雲雀はシエルの目を見つめた。月明かりの下でも綺麗な色を見せるシエルの空色の瞳に、雲雀が映る。
鳥には飛ぶための空が必要だ。
「……ずっと探していたんだと思う……君を」
「雲雀さま……」
その呼び方に、雲雀は少しだけいたずらな笑みを返した。
「シエル……ただ、雲雀、と呼んでくれないか」
そのお願いに一瞬視線を外したシエルだったが、上目遣いに雲雀を見ると、小さな声で名前を呼んだ。
「……ひ、雲雀……?」
雲雀は満足そうに微笑んだ。
頬に触れた雲雀の指が、ゆっくりとシエルの唇をなぞり、そのまま彼女の顎を軽く持ち上げる。
雲雀が優しく目を細める様子を見てシエルはとっさに目をきゅっと瞑ったが、彼の顔が落ちてくるのを感じた。
まるで羽のように軽い、キスだった。
二度、三度、ついばむように、そして四度目は体をぴったりと寄せ、長いキスをした。
花祭りが終わったあとの静寂の中で、月が映し出した二つの影はいつまでも重なっていた。
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