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活け花
蛙木(仮称)カントリークラブに勤めて5年になる間宮は事務長としてハウス内で活動するスタッフのリーダー役を担当している。
勿論、コース内でのお客様をアシストするキャディの管理も任されているのである。
「事務長、キャディ応募者の面接会場の件ですが、第一応接室で良かったんですよね?」
「どうして?第一じゃなにか都合の悪いことでも?」
「いいえ、余計なことお尋ねしまして申し訳ございません」
キャディマスターを兼務している間宮は、当然のことながら応募者の面接に立ち会うことは恒例でもある。
その会場の準備を任されていたのが、キャディマスター室では間宮の手足となって働く三浦優香である。
明日のキャディ応募者の面接会場が第一応接室であることは、事前に間宮から訊かされていた。
なのに・・明日の今日になって、何故三浦はわざわざ間宮に確認を求めたのか、勿論それには理由が有った。
三浦は明日の面接会場でもある第一応接室に視察を兼ね、当日必要とする事務用品と応募者データが組み込まれたPCの準備を始めていた。
その際気づいたのがテーブルの上の花瓶の花である。
『あら、これって新しいよね? 私がこれから活けようかと思ってたのに、どちらかが無駄になっちゃうかも?・・』
事務所に戻った三浦は自分の後輩でもある総務の浜田結衣に何やら話しかけていた。
「結衣ちゃん、今日お花屋さんが配達してくれたはずなんだけど、そのお花受け取ってくれたの誰か分る?」
「お花屋さんから受け取ったのは私ですけど・・なにか?」
「それって、何処に置いてあるの?」
「休憩室ですよ、いつものバケツにお水を入れておきましたけど・・」
「だよね・・それが見当たらないの⁉ 水の入ったバケツは有ったんだけど・・結衣ちゃん、その花ってもう一度見るとそれだと分る?」
「お花の名前は分かりませんけど・・たぶん見れば分かりますよ」
「じゃ、ゴメンちょっと来て」
三浦は結衣を第一応接室に連れて行った。そして花瓶に生けられた花を見てもらった。
「あっ、これ、これです、この紅いの覚えています、そっ、この白いのも」
「ふ~ん、やっぱりね! 結衣ちゃん有難ね」
「ね~先輩、何かありました? これって確か先輩が注文したお花ですよね?」
「そうよ・・でも、もう戻っていいから、このこと他の人には言わないでね」
「は~い、分かりました・・」
『他言』を抑止されたことで、更なる謎を抱えたまま結衣は職場に戻って行った。
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