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十一.
そして僕は、大鉈を掴んで投げ捨てると、コウを担ぎ上げた。
「なぜ……助ける……」
他のみんながいる元の鍾乳洞へと向かって歩き始めると、かろうじて取り戻したらしき意識の中で、コウが問い掛けてきた。
「なぜ?
そんなの、僕が『人間』だからに決まってますよ。
『文明』でも『野生』でも、正直どっちが正しいのかなんてことはどうでもいいんです。
ただ、どっちにしたって、人間は常に生きるために生きなきゃ駄目だ。
僕はこんな世界で一人じゃ生きられません。
だけどあなたは生きる術を知っています。
だから僕は、生きるためにあなたと共存する。
あなたが世界を滅ぼしたろくでもないテロリスト一味の大罪人なんだとしても、あなたを殺すことで得られるものなんか、何も無いから」
「……若造が……知ったようなことを……」
と、言いかけたコウの言葉を遮るように、突然の稲光と雷鳴が轟く。
僕はその方向へと思わず振り返った。
視界を、激しい雷雨の中、半分ほどを海中に沈めたまま直立している、巨大な気象制御船が覆う。
巨大な槍のような黒い機体を遥か上空へと見上げていくと、猛烈な嵐に霞む中、その先端がぼんやりと光っているのが見えた。
「あぁ……。
あれが……セントエルモの火か……」
ずっとずっと昔のような、まるで夢の中の出来事だったような気さえもする、当たり前に普通だった頃の記憶が蘇り、僕は少し表情を緩ませてその光に見入った。
「なんだ……」
コウも必死に顔を上げてなんとかその青紫の光を確認したが、痛みにうめいてすぐに首を落とした。
「別に。
単なる自然現象ですよ」
「船の……ライトじゃないのか……」
「違います。
人間が生み出したものじゃない、元々この世界に備わっているごく基本的なただの物理現象で……。
きれいですね」
人間に起こっている出来事なんかとは全く無関係に、この宇宙のそこかしこで生じているであろうその神々しくもある光景を、僕はしばらくの間、ただぼんやりと眺めた。
やがて光は、ふっと消えた。
僕はコウを担ぎ直し、再び歩き出した。
大雨に霞んで見える鍾乳洞の入口から、誰かが何事かと様子を見に来て、驚愕に身を凍らせていた。
その人の持つ松明の炎に、僕は思わず、安堵の息を突いた。
終
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