四.

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四.

教室にも、そのことに気付いた生徒たちのざわめきが広がり始めている。 「先生……なんか低過ぎませんか? 気象制御船って普通は高度二万メートルぐらいの成層圏の低層にいて、こんなにはっきり見えるものじゃなくないですか?」 「ふむ、確かにそうだな。 しかし時には一万メートル以下に下りてくることもあるし、このぐらいは……」 言いかけた先生だったが、きっとその物理教師の頭の中では、全長四百八十八メートルの飛行物体がどの程度の低空にまで下りてきたら、今見えているほどの大きさに見えるのか、などの計算が瞬時に行われたのだろう。 「このぐらいは……いや……こんなには……あぁ、まさか……」 先生が、よろめいて床に座り込んだ。 教室のざわめきが叫び声に変わり始め、皆がパニックに(おちい)り、僕も思わず席を立った、その瞬間。 巨大な槍のような気象制御船が、おそらくは音速を遥かに超えているであろう速度で(くう)を切り裂き、窓の向こうに遠く見える街の真ん中へと突き刺さった。 耳を(つんざ)くような轟音(ごうおん)と衝撃波が球状に広がり、船を中心にクレーターが形成され、かなり離れていたこの学校でも一瞬で全ての窓ガラスが吹き飛び、教室の生徒たちは床や壁に叩き付けられた。 机や椅子や人が散乱し泣き叫ぶ声が響く中、必死に身を起こしながら、しかし僕は、あぁ、これで終わりじゃないんだと、窓の外、遠くのはずなのに目の前にあるかのような、距離感を狂わせて街にそびえ立っている気象制御船を、呆然と見詰めていた。 船の周囲には、まるでネットの動画で観た台風のように、船の先端を中心に渦状(うずじょう)の巨大な雲が発生し巨大化し、激しい放電が飛び交い街中に降り注いでいた。
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