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五.
世界が滅ぶのに、一ヶ月もかからなかった。
そして家族も友人も全てを失った僕を待っていたのは、テロリストの一員としての暮らしだった。
『真人』を名乗るそのテロリストたちは、『人間の自然回帰』を謳い、気象を操るほどにまでなった人間の文明を破壊すべく、全世界の気象制御船をハッキングして狂わせ、『地球を人間の制御化から解放し、人間を文明から解放した』のだそうだ。
墜落してもなお稼働し暴走し続けている気象制御船により、荒れ狂い脈絡も無く変動し続ける異常な気象の中を、原始時代のような格好と生活をして生き延びること。
それが彼らの当面の目標であり、人間が人間として乗り越えるべき『試練』だと説いた。
「『人間らしさ』『人間の本来あるべき姿』とは!
『文明』に頼り生物としての尊厳や能力を失いながら、自らも機械の一部のように『生物もどき』と化していくことでは無い!
『野生』を取り戻せ!
思い出せ!
『人間』は動物なのだ!
生物なのだ!
ただ己の身一つをもってこの世界を生き延びろ!
それこそが真の人間の姿、つまりは『真人』なのだ!」
猛吹雪と強烈な陽射しが同時に襲う中に倒れていた僕は、どこかの山の大きな鍾乳洞で目覚め、松明を手にした原始人のような男に、いきなりそんなことを叫ばれた。
どうかしてると思ったし、要するにこいつらが僕の全てを破壊した張本人なんだとも気付いたが、それでも僕は、大人しくそこに留まることを選択した。
生きるために。
彼らの主張に異を唱えた者は、彼らが腰に下げている大鉈によって、即座に首を叩き落されていたから、僕にそもそも選択肢なんか一つしか無かったとも言える。
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