七.

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七.

だけどその肉を、火を使って調理することには、なんだろう、ずっと違和感を感じていた。 半年以上を生き延び、上の者たちにもだいぶ信頼を得て来た頃、ずっと面倒を見てくれているコウという男に、 「僕らは、火は使っていても良いのでしょうか」 試しに(たず)ねてみた。 「人間、つまりヒトとは、『()()』だろう?」 口の(はし)を上げながら、焼いた鹿肉に美味そうにかぶりつくコウに、僕はやっぱり違和感を打ち消せなかった。 底の浅い屁理屈(へりくつ)を聞いている気分だった。 こいつらは、やっぱりどこか馬鹿げている。 気象制御船を暴走させるために行ったハッキング、自然素材の手作りとは言え、日常の道具を備え、衣服を身に着け、武器を持ち、元軍人だと言うコウたち『上級真人(    シンジン)』が教える狩りやサバイバル的な『知識』というのも、誰かが考案し伝え広め熟成して完成された『文明』なんじゃないのか。 本当に文明に逆らうのなら、道具も技術も発想も、それを伝え合うことも禁じるべきだ。 浅はかな矛盾を抱えているのを、(みょう)な理屈と暴力で誤魔化(ごまか)している、幼稚な集団に思えた。 だけど、それでもここしか僕が生きられる場所は無い。 僕はずっと従順を装いつつ上手く順応していった。 やがて一年あまりが過ぎたと思しき頃、 「来い。 お前はその歳で大した『人間』だ。 今日はお前が『真人(シンジン)』となるための儀式を行おう」 コウが僕の肩を叩き、鍾乳洞(しょうにゅうどう)の奥、今まで決して近付くことを許されなかった脇道へと連れて行った。
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